金魚と淡水魚の飼育
53話
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拾丸と清正
 〜仰天!エサ金怒濤の急成長〜


↑生物飼育趣味で戒めてかからなければいけないことのひとつに無計画な生体の衝動買いがあるが、このたび何気にやってしまった。
集団就職の上野駅ようなエサ金のトロ箱から、たった一匹だけ掬われて、75cm本丸水槽にやってきた「清正」。痩せてるなあ。
(07.10.20撮)


 春たけなわである。ちまたの金魚水槽では、やれ追星の、サカリの、産卵の、孵化の、稚魚のと、てんやわんやになっておられるところも多いことだろう。新顔がやってきたことで、わたしのところの75cm本丸水槽も、久々になにやら似たようなことになりつつあるのだけれど、まだ当欄の話の進行がそこまで追いついていない。なのでそのへんの愛憎模様は、またもや次回へ先送りになってしまうのである。とにかく今回は、ニューフェイス「清正」のデビューとその成長ぶりのご紹介。まずはそのキャラクターと成長の様子をとくとごらんいただくことにしよう。

 話は昨秋までさかのぼらなければならない。こっちの記憶もそろそろ覚束ないのだけれど、ええと、あれは2007年10月20日だったっけ、産み苦しんだ51話の『段平盛衰記』をようやくアップして、ほっと一息の心地でショップへ出かけた。10月5日に工作した100円タッパー底面濾過付き水草ポッドに植える水草を購入するためである。おひろいの病気は全然治らんが、薬は高くなってしまって買えんし、せめて新鮮なガボンバでも植えて、大磯砂廃棄でガラス底剥き出しの殺風景になってしまった水槽に彩りを加えようと思ったのだ。

 ため息をつきながら魚病薬の棚を見ぬ振りをして通過。水草を買いふと隣りを見ると、トロ箱に「小赤」が元気に群れ泳いでいる。いわゆるひとつの「エサ金」たちだ。肉食魚たちの生き餌用に安価に売られているフナ尾の和金の幼魚である。だいたいが50匹700円とか100匹千円とかで十把一絡に売られているかわいそうな連中だが、ま、こういう境遇の奴らにいまさら情けをかけていても仕方がない。そういえば、うっとこの連中も元は皆、小赤でした。最後の一匹となってしまった「拾丸」にしてもしかりだ。こいつらが、すぐあんなにデカイ図体になっちまうんだから、エサにならなかったエサ金は恐ろしい…なんて思いながらぼんやり見ていたのだが、その時、ふと魔が差した。

 病気持ちDNAをみっしり受け継いで、きっちり歴代菌魚を襲名した「拾丸」だから、高水温の維持は仕方がない。なもんで水質水温にデリケートな日本産淡水魚との混泳は断念したが、本丸水槽にずっと一匹だけではやはり淋しいし、餌取り下手で残餌が出がちなこともある。そんでもって一粒種だから、もし病気でゴロッと死んでしまったら、わが菌魚一族は完全滅亡ということにあいなってしまう。これもやはり淋しい(願ったり叶ったりと思うわたしもいるにはいるが)。掃除屋兼非常時の世継ぎ候補に小赤くらい一匹いてもいいなあ…と。あまり深く考えないまま、ショップのにいちゃんに、「一匹」だけでも売ってくれるかと聞いたら、20円だという。どえらい割高だが、ま、ビニル袋の酸素のと包装にかかる手間を考えると致し方なしか。つうわけで一匹、無計画にポイと買っちまっただよ。

 群れている小赤を一匹買うのに、この個体をおくれ、と指差すのは無茶だ。しかしいくらお馬鹿なおひろいとはいえ、小赤のほうからお口に飛び込めばスッポリ入ってしまうくらいの体格差がある。にいちゃんに、なるだけ大きめのものを選んで一匹掬ってもらった。体長はおよそ4cm弱。ガリガリに痩せている。さあ買ってしまったからには、こいつとまた長くて濃〜い付き合いの日々が始まったことは知っている。この20円の生体が、あれよあれよとのべ数万円の出費を強要することになるのも重々承知のうえだ。でも、仕方ないのよね、こればっかりは。



〜 拾丸と清正、「ご対面」 〜
↑酸素注入ビニール袋にてショップから運ばれてきたエサ金。
水温合わせ中、ビニールを隔てておひろいに挨拶?
拾丸「誰やあれ?」 清正「あ、どうも」
(07.10.20撮)
↑登場時の体格差はこのくらい。おおよそだが拾丸は25cm超。
清正は尾の先まで4cm足らずというところ。
(07.10.20撮)

―清正デビュー初日―

←久々にやってきましたニューフェイス清正どの。この際だから年を数えてみるか。初代の姉金姉妹がやってきたのは1996〜7年頃だったろうか。そういやすぐに死んだけど黒出目金も一匹いたなあ。幼稚園児だった長男がお祭りで掬ってきたこの3匹のうちのビッグ・ママ「東王」(♀)が、この血族の始まり。その2年後あたりに、別の縁日で掬われてきた雄二匹「オヤジ」と「オジサン」が来た。2000年に東王と一緒に住まわせたらイキナリ子孫繁栄。それからこの菌魚太平記が本格スタートしたのであった。思えば今回の「清正」の登場により、わが家の水槽に東王母系&オヤジ父系以来、ほぼ10年ぶりに新しい血が流入したわけである。もっと深く考えてから買えば良かったかナと思うことしきり。
(07.10.20・以下同日撮影)
←水合わせが終わり、水槽に合流直後の様子。二匹の体格差を考慮して、隠れ家用のニセ流木を入れてやる。糞吸引のためフルオープンにしていたストレーナーの先端には吸い込み防止用パーツを装着。ま、いずれも要らぬ心配であったが。だいたい拾丸はオヤジJR以上ともおぼしき、当家歴代最強のおバカ金魚なので、すばしっこい清正を捕まえるのはとうていムリだ。最初のうち、まだ拾丸の馬鹿さ加減を知らない清正は、警戒して距離をとり、常に物陰に隠れるようにしていたが、すぐに「あ、こいつ馬鹿だ」と気づき、舐めきった行動をとるようになった。トメ子誕生のときもそう思ったのだが、金魚というのは、おおむね幼少時の方が賢くてズルくて要領が良いと思う。観賞魚としての歴史が長いサカナだが、幼魚期には多少は天然の頃の感性を残しているのかもしれない。


↑拾丸は孵ってしばらくの間クロメダカと同居していたけれど、他の金魚とマトモに同居するのは今回初めて。
この世間知らずの若様の反応が愉しみだったが、特に興奮することもなく基本は無視。しかし最初はこれだけの体格差があった。
(07.10.20撮)

―同居後13日経過―

←おひろいの馬鹿さ加減を即見切ってしまった「清正」。写真の距離感覚を保ちつつ、ちょいちょい拾丸にちょっかいを出すようになった。いやがる拾丸。はや10日にして、水槽の主導権は清正の手に。こいつ小さいくせに全然物怖じしないし遠慮もしないなあ。それともこの清正が特に賢いのか? アロワナのエサとして入れられても堂々と生きのびてゆくタマかもしれない。まあ、おひろいが馬鹿すぎるせいもあるのだが、完全に舐めきられてしまった。おい、先が大変だぞ、おひろい。
(07.11.02・以下同日撮影)
←さて、この新入りの養子を「清正」と名付けた理由。先住の「拾丸」は出自のアヤからそういう名前になったので、なんとなく太閤さん関連の名称が基本路線になっていたようなところに、買ったショップが「ひごペット」だったので、ひご→肥後(熊本県)→加藤清正。この連想で「清正」としてしまったのだ。当欄をドラマ仕立てに進める演出をするならば、秀頼との年齢関係も逆で、うまくパロディに嵌まりそうもないが、そういうことは何も考えていなかった。はやまって命名してしまった感はあるが、ま、どーでもいいっしょ。
←はや来訪13日で、肥満の兆しがハッキリと。清正がやってきたときはガリガリだった。このページ冒頭の写真と体形を見比べればその違いが良く分かる。まあ店じゃ子赤にエサなど与えないだろうから痩せていて当然だが、ウチに来て、アホでお行儀の悪いおひろいが出す食べ残しを散々喰いまくったあげく(というかおひろいの分まで奪っとる)、一気にデーブくんになってしまった。最初はどデカイ拾丸に脅えて隅っこに隠れていたくせに、もはや鼻先に出ておちょくる余裕を見せるようになった。こうなりゃ隠れ家のニセ流木は邪魔なだけなので取りだした。
←「ほよよよ〜」
仲間が来れば、生来の一人っ子もちょっとは性格が変わるかと思って見ていたれど、こいつは全くのマイペース。清正を威嚇したり追ったりすることもなく、なされるがままだ。自分割当てのエサもほとんど喰われてしまうのに、ぼんやりしているのみ。あかんわ。
←「なんどす?」
でもって病気はあいかわらず治る気配なし。全身粉吹き状態、お目目ボコボコ、鼻先ズルムケのまんま。もう投薬はしないかんね。摂生に努めてなんとか養生しておくれよ。


―そして来宅20日が過ぎ…―

←最初はビビッて一定の距離を置いていた清正だが、20日も同居すると完全に安全牌と認識。背後におひろいの口が近づいても逃げることもしなくなった。ま、おひろいは喰おうなんてことを思いつきもしていないのだが。
(07.11.08・以下同日撮影)
←大きく育った金魚は、小回りが利かなくなるので、浮上性のエサが水槽角の水面などに引っ掛かって溜まってしまうと、そのまま食べ残してしまうことになりがちだ。チビ金がいると、そういう残餌も目敏く探しだして食べてくれるから、無駄がなくなる。
←無駄がなくなるのは良いのだが、ウチの場合、おひろいの勘が鈍くて、普通に喰えるような餌までも食べ残してしまうので、そのアオリ、清正の食べる餌の量は、かなり過分なものとなってしまう。その結果がみるみるうちのメタボ急成長だ。ガリガリだった腹部はポッコリ脹らみだし、体長も5cm近くに成長した。
←もはや、顔の前を横切るのなど平気の平左。先輩を敬う心など少しもなし。
←どんどんやんちゃそうな面構えになってきた清正。飼い主の心情を言うと、最初は小さくて弱い新入りをケアする気でいたものが、チビの傍若無人な振るまいが目に余るようになってくると、今度は付き合いの長い先住人の肩を持つように変化してくるのだ。これ、人間社会での付き合いと同じだな。

―でもって、ひと月〈36日)経過―
↑清正デビューから36日。体長も伸びたけれど、ここらあたりから体高の増大の方が目に付きだした。
キンギョというよりタナゴに近い体形だ。ハッキリ言って食い過ぎです。
(07.11.25撮)

←なんか胸から腹にかけて、ポコンとお肉がついてきてみっともない。お前さんは当歳魚だし、まさか段平と同じ病気持ちなんじゃなかろうね。
(07.11.25・以下同日撮影)
←いやもう喰うわ喰うわ。卑しいの何の。水槽付近にわたしの影を感じるやいなや一目散に向かってきて「餌クレ!餌クレ!」。そうだったそうでした。いまや、日がなぼ〜んやりしている拾丸にもこういう時期があったわなあ。何度も経験してきているのにちょっと間があくと忘れてしまう。でも清正は、おひろいよりもさらに成長速度が速いぞ。

↑拾丸の剥け剥けになった口の皮がひらひらしていると、
清正がさっと近づき突っついて食いちぎる。病気伝染っても知らないよ。
(07.11.25撮)

―そして二ヵ月目です―

←おひろいと清正の育ちっぷりを比較するには、清正購入時の年齢を推定する必要がある。おひろいは当家で孵化したから、その成長記録とつきあわせると良いわけだ。体長3.5cmのころは生後二〜三ヵ月というところだった。それにならって清正の来宅時を孵化後二ヵ月と仮定すると、この時点で生後四ヵ月ということになるが…。
(07.12.10・以下同日撮影)
←う〜ん、当時のおひろいより断然デーブだなあ。おひろいにも餌は多めに与えがちだったのだが、なにせ一匹住まいだったので、入れるにも限度があった。しかし清正の場合は図体のでかくなった拾丸にあわせた餌の量が入る。それを先にみんな食べてしまうのだから、そりゃ肥ろうよ。この大小混泳、やはり問題アリ、でした。

―平成20年、お正月だよ―
↑拾丸と肩を並べる清正。もういっぱしの成魚のつもりでいるようだ。
大トトロと小トトロのような風情。
(08.01.01撮)

―元日です。来訪からおよそ70日―

←お正月である。しかしあたしも元日から水換え&撮影とは良くやるよ。そんでこの数日後に入院となっちまったワケだが、お前らにもいくらかは責任アリなんじゃないのか?
(08.01.01・以下同日撮影)
←この頃になると、今まで無視を決め込んでいた拾丸が、清正を露骨に嫌がるようになり、接近を避けるようになってきた。清正が近づくと、闇雲に暴走してガラスに鼻先をぶつけるのだが、清正は気にせず寄っていく。さすがにまだはっきりした兆候は見られないけれど、こりゃひょっとしたら、ひょっとするかも。
←おいおい、生後4ヵ月半(推定)でもう10cm間近かよ。おひろいでも半年かかって8cmだったんだぜ。おまけに鳩胸。この金魚らしくない体形はどうだ。ゲンゴロウブナの血が入ってるんじゃないか?
←お前さん、何となく「鈴々舎馬風」顔だね。

―2月。ますます成長は加速する―
↑逃げるおひろい、追う清正。
あ〜あ、面倒なことになっちまう予感が…。
(08.02.12撮)

←来宅4ヵ月足らずなのに、とうとう10cmを軽くオーバーしてしまった清正。何回も書いたけれど、急成長の原因の最たるものは、拾丸の餌喰いが不器用で山ほど無駄餌を残すからだ。それを清正が全部片付けてしまうからどうしても食い過ぎになる。かといって投入する餌を少量にすると、先に清正が全部食べてしまい、拾丸が食べる分がなくなってしまう。やっぱりスカベンジャーは成体が5cm程度で止まる別種の魚にすべきだったか。金魚じゃだめだわ。
(08.02.12撮)

―そして、3月―
↑清正デビューから5ヵ月弱、全長12cm超。バケモノだね。
目立たないが、おひろいもじんわりとは大きくなってきているのだが…
(08.03.06撮)

←気温の上昇につれ、サカリの季節が到来するのである。おひろいは今までずっと一匹飼育だったので雌雄の確証がなかったのだが、追星も出ないし、姫君である可能性が高いとうすうす感じてはいた。一方、清正は急激な成長をしてきたというものの、まだ生後半年少々のガキである。そうではあるが、その素行を観察していると、雄とおぼしき行動の兆候が見え出してきていて、おひろいを追うようなそぶりもちらちら見せ始めた。まあ、この春の時点ではまだ繁殖の能力はないと思うが、夏以降あたり、ひと騒動を覚悟せねばならないかなあ。
(08.03.06・以下同日撮影)
←どーだい、このふてぶてしい体格。ガキんちょのくせにねえ。喰いすぎても頭の部分はあまり大きくならないのは人間と一緒だな。メジャーリーグでも薬物使用疑惑が騒がれているが、清正をみてると、ステロイドを使用しているとしか思えないマッチョ体形だなあ。早死にするぞ。

アクアリウムコーナーのトップページに、水槽主要メンバーの「来宅後の生存日数表示」を入れてみました。
←段平の闘病中は中三日置きの換水ペースだったけれど、おひろい水槽になってからは一週間置きの換水でルーティンしている。一週間置くとさすがにガラス面に茶苔が出てくるので、久々に石巻貝に登場いただいた。2月28日にまずは3匹投入して徐苔性能を見ているが、なかなか頼もしい。清正が、あわよくば喰ってやろうとしばしば吸いついたりしているが、いまのところ無事だ。しばらく様子を見て増援を招くかどうか決めたい。でも汽水環境で繁殖する貝だから淡水オンリーで飼育するのはかわいそうな気もするのだ。


↑『風雲!大坂城』の芝居仕立て演出で行こうかとの目論見は今回はパス。清正があまりにも早く育ち過ぎやで。
しかしこうやって清正の色と比較すると、わが「東王家系」の金魚てのは、かなり「赤」いんですな。
(08.03.06撮)

↓で、清正デビューから5ヵ月後の姿がコレ(4月5日現在:全長15cm)。
ボコボコの凄い体つきになってますが、決してステロイド・マッチョではありません。
単に喰い過ぎなだけの、ナチュラル・デブです。ページ最上部の写真と同じサカナとは思えないなあ。
(08.03.23撮)
2008/04/05 (Sat)

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