ヤドカリと磯の生き物の飼育

08話
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面倒ふえたよ2 瀬戸内海編


 海の日の祝日が絡んだ3連休。子供たちも夏休みに入り、解放された気分を漲らせている。しかしこちらはうだつがあがらないところにこの暑さだ。けだるい!
 …が、ゴロゴロしてもいられなくなった。大金魚「東王」(金魚編参照)の病気が酷くなってきたのだ。たぶん細菌性の感染症だと思うのだが、顔の周りはタケノコの根元のような赤いブツブツが多数発生し、腹部のウロコ一枚がはがれて化膿し皮膚に水生菌が生え出した。そのため、本水槽の金魚、オトシン、水草類を60cm水槽に移し、グリーンFゴールドの薬浴をさせることにした。この作業で連休初日は完全に潰れ、ヘトヘト。
 夕刻までかかってようやく作業を終えたが、水槽いじりだけでは「仕事した」と認めてもらえないのが辛いところなのだ。しぶしぶ今度は家の中の整理にかかり出した。なんとかひと部屋を一見片付いたように見えるところまで復元して、かいた大汗をシャワーで流したところに友人から電話である。
 電話は、明日(21日)子供を海水浴に連れて行くが、一緒にどう?というものだった。少し考えてから返事します、と答えてとりあえず電話を切った。
 カラダは疲れきっているし、財布の中身は心細い。一旦は断わろうかと思ったが、子供たちはもはや浮き袋を膨らませたりしだしている。かたわらの海水水槽に目をやると、たった2匹のみになったホンヤドカリの姿も寂し気に見える。いかんいかん、もうヤドカリはいかん。と思いつつ、砂浜の海水浴場では滅多に見かけることはないことだし、それより海水浴はやはり7月中が最適であるので、この機会に義務を果たしてしまおうと同行の旨を返事した。
 からりと晴れた翌朝、はしゃぐ子供たちを連れて友人と落ち合う。今回はオヤジ2人がそれぞれ2人ずつの子供を連れてゆく、母ナシ6人の暴挙である。新快速を明石で山陽電鉄に乗り換え、林崎松江海岸の浜へ繰り出した。
 小さな浜の連なっているこのあたりの海岸は遠浅で、潮が引くと浜の中程に砂州ができるという、小さな子供を遊ばせておいてビール飲みつつ監視するには絶好のロケーションである。
 到着時は満潮である。すこし歩いて浜の両側にある石の護岸をチェックした。ヤドカリは見当たらない。動いているのはせいぜいフナムシくらいだ。しめしめ。どうやら今回は面倒が増えることはなさそうだ。
 昼頃になると、潮が引いて水際はタイドプールになり、その向こうに砂州が現れてきた。この砂州で、お決まりの砂遊びが始まるのだが、砂を掘っていると、けっこうの頻度でアサリやゴカイが出る。水は汚れたとはいうもののさすが名高い明石の海だ。と、ときどき2〜3mmの小さな巻貝が手に当る。ん?、と目に近付けて良く観ると、なんとこれ、ほとんどがヤドカリではないか!・・・これはまずい、と、大きな砂の城を作っている子供たちのほうを見ると…
 「お父さん、ヤドカリがたくさんいるよ!」
 しまった!やはり先に気付かれたか。
 「そんな小さいのは赤ちゃんだから、逃がしてやりなさい」
 この時はとりあえず、城作りに夢中だったのが幸いして、事なきを得た。
 海の家で昼食をとり、午後になると、子供たちはそろそろ砂遊びにも泳ぐのにも飽きてきた様子で、浜をうろうろしだした。しばらくして護岸よりのタイドプ−ルのほうから子供たちが駆けよってきて、ヤドカリがいたからそのビールの空き缶をよこせ、という。私が飲んでいたのはマグナムドライのボトルカンで、この発泡酒、キャップの口径が大きい。こちらの空いてしまったペットボトルを使えというと、ボトルカンが良い、と譲らない。残りを飲み干して渡してやったのだが、「ヤドカリ」の言葉が気になって、私もそちらへ行ってみたら…
 深さ10cmほどの大きな砂浜の潮だまりの底は、幼生からヤドカリになったばかりの子ヤドカリがうじゃうじゃ這っているではないか!小さな巻貝が拾える砂浜はなかなかないものだが、ここでは山程集められる。ただし、ヤドカリ入りに限るが。
 私は、子供たちに、採るのは良いが帰りに逃がしてあげること。そして息子には、比較的大きいもの5匹のみ、持ち帰りを許すことを告げた。女の子たちは、小さくて奇麗な巻貝を収集したいのに全部ヤドカリなので御不満のようすだ。こんなところもあるものだなあ、と感心した。
 パラソルの日陰に戻り、一服つけながら、脱皮の失敗でホンヤドカリが死んでしまい、2匹のみになってしまったこともあり、5匹程度なら今のままでなんとか飼育できるだろう、と考えた。かなり小さいものばかりになりそうだが、幸い家に小さな巻貝のストックは豊富にある。直径2mmくらいのものも10個はあったはずだし、息子には大きいもの5匹と言ってあるから、それを出してくる必要もなかろう。
 陽が傾き、帰り支度をするころには、こちらはもうぐったりだ。背中もヒリヒリする。重い足どりで我が家にたどり着き、息子に、
 「持って帰ってきたヤドカリを、ここにだしてやりなさい」とバケツを渡した。
 バケツの中を見て驚いた。なんと16匹。それもほんとうに貝殻に入りたて、みたいな小さいのまでいる。あのガキめ!ボトルカンを譲らなかったのは口径の問題ではなく、中身が見えないからだったのだ!これは確信犯である。
 しかし怒る元気も無いほどヘトヘトのこちらは、明日までにかなりが死んでしまうだろうなあと思いつつ、バケツにO2ストーンを放り込むのみで泥のように眠ってしまった。


←明くる日のバケツの状態。大きい貝殻は先住者用に拾ってきたもの。小さなヤドカリ16匹のうち6匹が、すでに御陀仏さんになっていた。

 明けて22日、カラダ中が重い。背中、肩も日焼けで痛む。腰も痛い。昼前になってようやく這い出してきてバケツを覗き込んだ。
 案の定だが、極小のものは死んでいるものが多く、6匹が死んでいた。息子に訓戒をたれたのち、腕組みをして考える。新入りが10匹。先住の2匹を加えて12匹だ。貝殻のラインナップのストックは十分にあるのでなんとか飼ってみよう。水槽や砂も汚れているので、今日を大掃除の機会にすることにして、先住のヤドカリもバケツに移しエアレーションをしておき、水槽を風呂場に持ち込んだ。サンゴ砂を洗い底面フィルターを掃除して、新たに細か目のサンゴ砂を1.5kgほど追加した。
 しばらく暖気運転をして、水質の安定を待ち、先住の2匹をいれて様子を見たのち、新参の10匹を加えた。そこに極小の巻貝を見繕って加える。実はこれ、家人が海に行くと一生懸命集めているもので、なにかの飾りでも創ろうと思っているのか…ここに入れるのはナイショではあるのだが、まあ許していただけるであろう。
 観察していると、チビヤドも元気で早速さかんに宿替えを始めた。ヨメのコレクションは正しく役に立ったわけだ。投入1時間くらいでもう脱皮をする気の早い個体もいる。
 ま、とりあえずメデタシというところだが……私は知っている。このあとどんどん問題が発生しだすことを。そして結局、私にとってえらい面倒なことになってくるのだ。覚悟しなければ。
 私が餓鬼だった頃には、親父に「5匹限定」などと決して言わせなかったような気がする。飼育などは自分で全部やっていたからだ。そのかわりほとんど死なせてしまってはいたが。父は飼育に興味がない人だったからあまり口出しも手出しもしなかった。
 可哀相なのは、私? それともこんな父親にあたった息子?

←完全メンテ終了後のヤドカリ水槽。はや宿替えが頻繁に行なわれ、2匹が脱皮を終えた。上はオカヤドカリ舎、暑いので照明は外してある。
←新規参入者たち。日本海産の先住者と瀬戸内海(播磨灘)生まれが、折り合いよく暮らしていけるのかどうか?

↓デスクボーイ水槽を端の方から見ると、なんとなくジュラシックパーク風の味わい。
2001/07/22 (Sun)

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