ヤドカリと磯の生き物の飼育

07話
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嗚呼!脱皮事故死


 もはや事故から一週間以上過ぎてしまったのだが、7月9日、ホンヤドカリの水槽に異変が起った。
 仕事場より帰宅(深夜0時)してシャワーで汗を流し、さあ夜の御飯の時間だよ〜、と水槽を覗き込むと、何やらホンヤドカリたちの様子が尋常でない。
 「ん?」と、もう一度凝視すると、うち一匹が横転し、貝殻の口から弱々しい足先をのぞかせているではないか! 少しだけれど、まだ脚先が動いてはいる。
 すわ!水質急変か?、と比重計で計ってみたが特に問題はない。水を透かしてみても問題なく澄んでいる。水温は28℃で高値安定というものの、ここのところの常態だ。
 他の2匹も、サンゴ岩が水面上に完全に出ているところまで登っている。これも普段はほとんどみられない行動だ。やはり海水の状態が悪いのだろうか。
 とにかく換水だ、とあわてて人工海水を造り始めたのだが…。
 作業しながら横目で水槽をくまなく見ているうちに、サンゴの脇に脱ぎ捨てられた皮を発見した。
 前回にも書いたが、海のヤドカリの脱皮は、おかやどかりに比べて、皮を脱ぎっ放しでぞんざいなので、一見すると死体と間違いやすい。それで注意深く、ピンセットで拾い上げてみると、どうも中身が「本物」のような気配だ。脱皮殻にしてはやけに量感がある。
 そうすると、この横転した貝殻からのぞいている脚は、なんなんだ? しかもかすかではあるが動いているし。どちらが脱皮殻なのか?
 あわててもう一度個体数を数え直す。岩の上に2匹。横転が1。脱け殻が1。3匹飼っているのだから、たしかに脱皮が行われたことには間違いがない。
 どちらが本体かよく解らないので、取りあえず水中に投げ出されているほうをよく観察してみると、ハサミのあたりは確かに殻なのだが、腹部の柔らかい肉部分が黒い糸状の神経みたいなものを介して、付いたままではないか。その色も生々しく赤い。そしてこちらは全く動かない。
 となると、貝殻からのぞいている脚のほうが本物である。こちらは少し動いているのだもの。しかし、脱皮直後の不安定な状態のときに、貝殻から引っぱり出して中身を調べることは、ちょっと危険でできない。
 今日のところはとりあえず人工海水を造り終え、換水して、一日様子を観ることに決めた。
 さて明くる日、恐る恐る横転した貝殻のほうを拾い上げると、のぞいている脚はもはやピクリとも動かない。そこでピンセットで引っぱり出してみると、案の定、こちらの身体には腹部がなかった。
 推測するに、こやつは脱皮をしたのだ。で、その最中を他のヤドカリに襲われたのか、それとも自分でしくじったのかは解らないが、脚と胸部を脱いだあと上手く腹を抜くことができず、皮に残したまま、あわてて元の貝殻に戻った。一応の安全を確保したのだが、如何せん腹が無い。すぐに弱り始め、とうとう横転したところを私が見かけたというところだろうか。
 改めて脱皮行為は命がけのものなのだ、と痛感させてくれた訳だが・・・
 なんて、マヌケな奴なんだ!前日まで、あんなに元気で餌を喰って動き回っていたのに!
 ・・・合掌。
 しかし、腹が千切れて無くなっていても半日くらい動ける生命力は、凄いといえば凄いなあ。


←左上が脱ぎ捨てられていた脱け殻で、その右の方に中身のつまった腹部がある。右下は貝殻の中に残っていた本体の亡骸。腹部が見当たらない。(あたりまえか)

↓元気だった5月頃に撮った写真。日本海から採集してきてちょうど1年だった。
入っている貝殻の直径は2倍以上になるまでに成長したのだが…
これで海水水槽のホンヤドカリは2匹のみになってしまった。
1年間、お付き合いいただきありがとう。ご冥福をお祈りいたします。
2001/07/19 (Thu)

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