おかやどかりの飼育

29話
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ヤド六の「飼われ」方 ―cave流飼育法その2―

↑なに澄ましてるんや。え、見合い写真のつもりやと。(04.09.05撮)


 偏屈&貧乏な飼い主に囚われ、孤独&不遇な生き様を送っている、やもめのオカヤドカリ「宿六」だが、飼い主の事情によりエアコンもロクに入らなかったこの夏の猛暑をやり過ごし、金魚や海のヤドカリのあおりで放ったらかしにされがちだったにもかかわらず、マイペース。いたって息災な日々を過ごしてきた。
 そんなヤド六が、この夏密かな愉しみにしていたのが、飼い主に散々話しかけられていた「嫁取り」の一件だ。この一点を心の支えに、ずっと砂にも潜らずに待ち続けていたのだが、もはや夏も終わり。それでもまだ僅かな望みをいだいていたところ、先日「ヤド六、すまん。また来年な」の連れないヒトコトを通告されてしまった。ショボーン。

 しかしまあ、飼い主の言い分を聞いてみると、それなりに嫁探しはしたようなのだ。街へ出るたび、時間があれば百貨店の屋上やペットショップを覗いたようだし、天神橋筋で売られている同類もじっくり見聞してきたらしい。この偏屈オヤジ、「ヤド六の嫁たる雌は、色白で健康で気立てが良いウチナンチューで、たっぷりとした肉置きでならねばならない。またヤド六の大きさよりは少々控えめでなければならず、雄にたて突くようなお転婆娘は我が家の敷居を通さず。一匹のみ購入。しかも五百円以下、貝殻数個オマケ付き」などと、無茶な条件を並べているものだから、そんなお嬢さん、いまどき大阪の町に棲息しているはずがない。
 オヤジの探しているのは、テキヤ売り(露天商)のオカヤドカリである。上記の無茶な条件を満たすためには、テキヤと談笑しつつタライの前にしゃがみ込んで一匹ずつ摘みあげ、いじくり回しつつ種別雌雄健康容姿じっくり見定めたうえ、笑顔の値引き&サービス交渉に持ち込まねばならない。京都や神戸の場末商店街や縁日などもうろついたが、結局一軒も出会えなかったようだ。まあ、もはやテキヤ売り自体が存在しているかどうかも怪しいのだが。

 ところが偏屈オヤジ、ある時期から突然、嫁探しをピタリと止めてしまった。なんでも近所の雑貨屋で、極めて「不愉快な玩具」を見てしまったという。頗るご立腹で、いまだ思いだすのも虫酸が走るらしく、以来ヤドカリが売っていそうなところにも近づこうとしない。あのパック詰め。まるでオマケみたいなものではないか。ひとたび見てしまえば、かわいそうで買って救済しないわけにはいかないが、法外な価格に、先立つものもなし。あれに比べりゃ、店のエアコン直下で腰まで水に浸かりながら、震えショボクレつつ早く買われるのを待っている某所の娘さんのほうが、まだマシだと言う(それでも嫁にはとらんらしいが)。そんな理不尽な癇癪のとばっちりを受けて、この夏もヤド六の嫁取りの夢は儚く潰えたのだった。しかし、賢明な宿六氏はというと、「このままでは、ついに婚期を逃してしまう!」などと焦ったりはしていないようで…。今日も隣に並んだ水槽のメダカたちが気持ち良さそうに泳ぐさまをぼんやり眺めつつ、午睡を愉しんでいるくらいだから。

 さて以前書いた「オカヤドカリとのつきあい方」からはや一年半余りが過ぎ、ヤド六の素行も環境も少しずつ変わってきた。なもんで今回は、「最近のヤド六の飼われ方」つうことで、再びの中間報告をしておこう。

↑こんどは少女マンガの瞳のつもりかい!そんな眼してもヨメさんは来年やで。


●ヤド六とは?


 1999年盛夏、京洛南の某商店街銀行前露天商より百円にて購入。当時推定2〜3歳。愚息が宿貝の意匠だけを見て(脚一本欠損した個体だったのに馬鹿者め)選択。出生地:不明。種名:ムラサキオカヤドカリ(たぶん)。性別:雄。04年夏現在の前甲長:約14mm。性格:偏屈。ウチのオカヤドカリはこの「宿六」一匹のみ。

●最近の「ヤド六」の飼われ方

〜砂〜
 オカヤド舎は、―その1― のときから、おおむね変化はない。ヤド六の成長に伴い砂の厚みを増した程度。現在平均砂厚8〜9cmくらい。全高17cmのデスクボーイ水槽なので、もはや天地の半分は砂。したがって移動できる空間も8cmほどしかなくなってしまった。水槽の更新は飼い主の家計急速悪化中のため不可。ヤド六は我慢するのみ。水槽の前面幅60cmの端から15cmの位置に高さ9cmのセパレータを設け、狭いほうに沖縄の「りゅうか商事」から購入した『沖縄の砂』を、残り45cm部分にはショップで購入したサンゴ砂を敷いてある。砂の表面はほぼ乾燥した状態。ヤド六はふだんはこの乾燥した『沖縄の砂』の部分に腰を据えて居眠りしている。舎内湿度は30〜40%程度で、脱皮時以外はキリフキはせず、流木を絶えず少し湿らせてあるだけ。偏屈なヤド六は濡れた砂が脚に付着するのを嫌ううえ、濡れた水草を主食にしているので、まあよかろうとほぼドライの状態だ。水分を要するときは、ヤド六自ら、ちゃっちゃと水入れまで這ってゆき補給している。狭く細長い水槽(奥行17cm)ゆえスグ水場へも到達が可能だ。砂洗いは面倒になって、ここ1年以上全然していないような・・・。そのかわり2〜3週間に一度は必ず天日干しと糞取りを行なっている。(偏屈でない一般的なヤドカリをお飼いのかたは真似ないほうが無難です)

〜流木〜
 上記のような空間の按配なので、長さ30cmほどの細長い流木を、地表から2〜3cmは浮くようにして枝部分を砂に突き刺しゴロリと転がしてある。ヤド六がこの上に登って進むと、すぐ天井に貝殻がぶつかってしまうありさま。メンテの折には、海ヤド水槽に浸けておき海水塩分を染み込ませる。60×17cmのスペース真ん中に、この流木がでんと横に寝ているので、ヤド六が地表をウロウロするときは、自然とこの周りをグルグル回ることになり、途中、かならず餌場、水場、ガジュマル、塩土、カトルボーン、宿替え用貝殻を順に乗り越えて行かねばならぬ羽目になっている。平面マップでいうと、えらい昔のRPG『KOEI:信長の野望・全国版』の「越後國」みたいな地形になっているのだが、こんなこと書いても解るひとはおらんか。(安定した一般的な暮らしができている方は、広い水槽を購入してやったほうが無難です)

〜餌〜
 飼い主の家計急速悪化中のため、もはや好物の「モスバーガー」のフライドポテトは2年以上与えられていない。チラシにクーポンが付いていたときに限り、たまに「マクドナルド」のを入れることがあるが、こちらのは見向きもしなくなってしまった。煮干しも最近はほとんどハサミをつけなくなった。ポップコーンだけは今も食べるが、おやつを主食にするような子では飼い主の躾が悪いと思われるので、たまにしか与えない。普段餌場に入れているものは、煮干しの頭と食パンくらいである。ただニンジン屑が出たときは必ず与える。餌を毎日変えるなんて面倒なことはしていない。思いだしたときに交換してやる程度だ。そのかわりと言っちゃなんだが、毎日、金魚やメダカ水槽の水草、アナカリス、ガボンバ、ウィローモスの散乱したのを掃除がてらに失敬して、たらふく食わせてやっている。また以前全く見向きもしなかったインコ用の塩土を良く食べるようになった。まあ毎日食べるわけではなく、月に数度、体が欲したときに限りイッキ多量に摂取しているようだ。あと、ガジュマルは飼い主の気も知らず、あいかわらずよく食べているが。(偏屈でない一般的なヤドカリをお飼いのかたは真似ないほうが無難です)

〜ガジュマル〜
 ヤド六の大好物ガジュマルだが、あんな高価な物をバリバリ喰われ枯らされたんでは、不経済の極みだ。飼い主の家計急速悪化中の折、最近は入れていないことのほうが多い。しかしまあ、緑がないと水槽内が殺風景ではあるし、植物は湿度を補うにも適当なので、超お買い得掘出し品に巡り合った場合のみ購入している。しかし前述のように、水槽内空間は高さ8cmしかないので、もはや水槽に合った形のガジュマルを探すことなどは無理。で、デカくて不細工でも、安くて株分けしやすいものを選びドデンと購入し、これをベランダに鉢植えしておく。食材と割りきったうえで適当に伐り分け、ほぼ幹が地面に平行になるようにハイドロ植えをするが、以前紹介したような、水槽内で育成させるための手の込んだ植え付けは、もうしていない根腐れ結構。だいたいそうなる前に丸坊主になってしまうのである。そこで趣は残無いが食草と割りきり、一輪挿し方式でお茶を濁すことが増えた。ウチの水槽砂厚サイズに合った、長さ7cm直径13mmくらいの底付きプラ円筒を、ガラクタの中から探しだし、これを砂に埋め、筒の中にもサンゴ砂を入れてしまい、鉢植えのガジュマルからチョキンとひと枝伐ってきて、ぶすりと挿している。ハイドロ肥料を筒に少量垂らしてやって終わりだ。これでもヤド六が食傷気味の時などは、どんどん育ってくるので大した生命力だが、いざ喰われだすとすぐに無くなる。するとまたベランダで繁茂している元株からチョキンと一本伐ってくるというやりかたである。貧乏人は工夫がないとやっていけないのでありますな。(安定した一般的な暮らしができている方は、真似る必要はありません)

 トシをとって、ベジタリアン化してきたのかもしれないが、青物の摂取が目立つようになってきた。また、ヤド六、あんなに行水が嫌いだったのに、最近はどんどん水中に入っていき、水底をごそごそ歩き回るようにもなった。テトラアクアセイフ入り淡水でも、人工海水の海ヤド水槽に乱入させてもである。いったいどういう心境の変化なのかね?
 なんどもくどいが、飼い主の家計急速悪化中のため、ヤドカリより先に心配しなきゃならんモノが多い今日この頃。ヤド六にもここはもろもろ辛抱してもらわねばならない。なわけでついでに、“書き物のお仕事などございましたらお申し付けくださいませ”などとコマーシャルしたりしておくのであります。




←砂の量が増えたのはありがたいのだが、そのぶん生活空間が狭くなってしまった。流木も横に寝かせるしかない。その下の隙間を匍匐前進で通過するヤド六。(04.09.05撮)
←ハイドロのガジュマルも、真っすぐ植えることはかなわず、地面にほぼ平行に。中央奥の茶色の円錐台はインコ用の塩土。小さなプラ容器に、割り取ったカトルボーン(イカ甲)と一緒に入れてある。砂に挿してある黒いものは脱臭用備長炭。ハイドロボール保護(ヤド潜り防止用バリケード)にも使っている。
←流木に昇ると、すぐ天井が迫って来て貝殻がつかえてしまう。ますます性格が鬱屈しそうだ。ちなみにこの水槽外も、中古老朽マンションゆえ天井は低い。水槽内空間容積が少ないと、気温や湿度の変化が極端に動くので注意が必要である。

●ヤド六、ベランダに遊ぶ(04.09.05撮)

←つっても、鉢植えから脱出しようとすると、すぐにバケツに戻されてしまうから、つまらない。
←おっと、この養生中のガジュマルの挿し木を食べると、どやしつけられるんだった。ここは大人しく退散しておこう。
←プランター外でのお遊び禁止となると、たいして移動もできない。仕方ないから、この植木にでもちょっくら登ってみっか。(当然ヤラセ)
←大きくなって貝殻も重くなっているので、足場が悪いと登るのがタイヘンだ。うっかりすると、すぐずり落ちてしまうわい。
↑おお、絶景かな!
←いいかげん疲れたので休憩。アブラゼミに擬態中。

←ときどき、ながながと訳の解らない行動をすることがある。身を乗り出してゴソゴソ。ウンチでもないようだが、いったい何をしようとしているのか? ダンナ、眼がロンパリってまっせ。
←ヤド六は、貝殻選びに関しては非常にデリケートである。30分くらいかけてさんざん見聞しないと替わってみない。現在のものがやや小さくなって久しいのに、ひとまわり大きなこの空いた貝殻がどうも気に入らず、入っては戻りを繰り返している。前回レポート(つぶやき2)のときは、大きいほうの貝に入っていた。
←まあ、そのうちに、別嬪の娘さんと巡り逢える日もくるであろう。それまで、摂生してせいぜい長生きしておくことだな。

↓ガジュマル葉陰と沖縄の砂のこの場所が、ヤド六の最近のお気に入りのようだ。
2004/09/06 (Mon)

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