おかやどかりの飼育

25話
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行水はお好き?

↑行水をすると、なぜか食欲が増すんですな、これが。


 7月のほとんどを砂に潜って脱皮に専念していた「宿六」も、8月のアタマに顔をだしてからは、毎日ゴソゴソカサカサとオカヤド舎をうろついているのだが、金魚の病気や海ヤドの大量来宅の騒ぎに巻き込まれ、あまり構ってやれないまま夏が終わろうとしている。この夏で、わが家に来てから5年目に入った。来たときの大きさから類推するに、生後7〜8年というところか。こういう環境で、いったいどのくらい生きるものだろう。そろそろ爺いになってきたのかもしれない。今入っている貝殻は、前回〈正月)の脱皮後に、すでに窮屈になってしまっている。毎回、脱皮直後に一回り大きな貝殻に宿替えするのだけれど、一日と置かずにすぐ前の貝殻に戻ってしまう。今回も同様で、一旦は換わったけれど、窮屈な方を選んだ。ま、好きなようにさせておこう。

 金魚と海ヤド騒動が一段落した8月の終わり頃からは、ようやく余裕ができたので、それ以降は毎週一度、天気の良い日にベランダに出して、砂の天日干しをしている。その間ヤド六には、陽の当たる場所で、海水浴またはアクアセイフ入り淡水浴をしていてもらうのである。小さなバケツに、海ヤド水槽から失敬してきた人工海水(テトラマリンソルト製)を深さ1〜2cmの深さに入れ、そこで行水させておく。最初のうちはさかんに逃げようとバケツの壁に脚を伸ばしてはくるくる回っているのだが、しばらくして覗いて見ると、一緒に放り込んである貝殻の上に、ちょこんと行儀良く座り、神妙にしていることが多い。どうやら、脚先が水に触れるのを好まないようである。折角の行水なので、お節介だが、ちょんと突いて落としてやるのだけれど。

 しかし、この「行水」という言葉も、ほとんど死語になりつつありますな。先日も若い人に「暑かったら行水でもしたら?」と言ったところ「行水って何ですか?」という言葉が返ってきた。わたしなどは、実家の横手の路地の陽の当たる場所に、木製の「盥」を出して、井戸から水を「金盥」で何度も運び、よく行水したものだ。もちろん、空気で膨らませて作るビニール製のものもすでにあったが、あれは「プール」であって、「行水」ではない。だって、「手拭い」を持って入らないもの。重い盥を物置からごろごろところがして出し、水を張って行水してから、水に浮くおもちゃなどで遊び、盥を片づけて、井戸水に冷やしてあった西瓜などを食べたものだが、それでも、夏の長い一日のほんのひとときの時間だったように憶えている。今、ああいう作業をすると、たとえ水道とホースを用いたところで、ほぼ半日が費やされてしまうような気がするのだが、時間の観念というのは不思議なものだなあと思う。

 ま、手拭いは使わないけれど、わたしにとってオカヤドカリの水浴は、まぎれもない、この昔の「行水」のイメージなのだ。さて、その効用だけれど、同好諸先輩方の報告によると、海水に触れさせることによってカルシウム、ヨウ素などの不足が補われ、脱皮の成功率が高まる、などがあるようだ。難しいことはわたしにはわからないが、塩は、金魚では水生菌を殺菌するときに用いるし、アクアセイフも金魚の鰓の保護・修復にはある程度効いているようなので、それが甲殻類に効くのかどうかはともかく、まあ、害がなけりゃいいや、と気休めに使ってみたりしている。個体によっては、喜んで水浴びする輩もあるらしいのだが、ウチの宿六は、水はどうも苦手なようだ。

↑オイラ、水が苦手なもんで…
貝殻を島にして途方に暮れる「宿六」

 「宿六」の行水後、顕著にみられる変化をご報告しておくと、いちばん目立つのが、「元気になる」ことである。それまで、流木の陰でじっとショボくれていたのが、行水後の2〜3日は、落ち着きなく水槽中を活発に動き回る。天井に登ったり、ガジュマルを齧ったりと大忙しだ。もっとも、これは久しぶりに水槽から外に出したり、日光に当たったり、という複合要素がからんでいるので、海水による行水のみがその原因だとははっきり言えないが…。次に気がつくことは、「食欲が増す」「宿替えの意欲が増す」「排便量が増す」ことである。これも、活発に動き回ることにより、餌場やガジュマルや空き貝殻に接する機会が増えるから、と言えないこともないけれど。まあ、苦しんで暴れているようには見えないので、これからも偏屈な飼い主は、宿六の嫌がる行水を頻繁に行ってやろうと思っている。

 砂の日干しの機会が増えたので、ついでに養生させてあった二代目ガジュマルをヤド舎に移した。購入時から貧相な枝ぶりだった三代目は、ほぼ一月で裸にされ、すでに鉢養生に回っている。十分再生した二代目であったが、行水後の元気な宿六にかかっては、再投入後二週間で、もはや葉や新芽は半数に。あわててガジュマル保護のために、金魚の水草の断片を毎日入れてやることにした。最近はこちらの方がお好みのようで、特にガボンバなどは30分もかからずに一本を茎だけにしてしまう。金魚水槽からのお裾分けとは言うものの、こちらも結構高く付くのだ。淋しい財布の飼い主にとって、こういう旺盛な食欲が出ることについては、頻繁な行水はちょっと考えものでもある。

←今回の行水は海ヤド用の人工海水(テトラマリンソルト製)を拝借。この商品のパッケージには、塩素中和剤・ストレス緩和水質調整剤・表皮粘膜保護コロイド・ビタミンBグループ含有、とあるが、はたして甲殻類のオカヤドカリにも効くのかな? 水道水+テトラアクアセイフで行水するときもある。
←最初のうちは一生懸命脱出を図るのだが、「宿六」は水嫌いなので、そのうちに、水に触れないよう貝殻に登ってじっとしてしまう。しかし、飼い主に見つかると、ふたたび水中に落とされてしまうのであった。
←行水からオカヤド舎に帰ると、元気ハツラツに。いつもは流木の陰に座り込んで動かないのだが、行水後数日間は、水槽狭しとさかんに動き回る。
←海水浴の後は真水が恋しくなるのか。ま、喉が渇くのだろうが、両のハサミを動員して口や貝殻内に運び、真水の補給に余念が無い。それでもハサミ以外の脚は、できるだけ水に触れないようにしているところが、水嫌いの由縁。
←元気さ余って天井にまで進出。フィールドアスレチックを愉しむ。夏の間はアルミのパンチ板の屋根なので、足がかりは十分だ。
←裸になった三代目とバトンタッチ。養生を終えた二代目ガジュマルが再び入った。早速登って味見。
←新芽はそのまま摘んで食べてしまう。大きな葉も写真のようにハサミで切り取って食べる。ロクに食べないうちに枝をチョキンと切って、まるごと一枚落として枯らされるのが、飼い主にとっていちばん痛い。
←喰うだけ喰ったら、出すものも出さねばならないのが道理。ガジュマルの木陰で、いきんでみたりして。

↓日なたぼっこはともかく、オレは行水が嫌いなんだ。
2003/09/15 (Mon)

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