ヤドカリと磯の生き物の飼育

26話
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淘汰の果てに

↑もはや海ヤド水槽のヤドカリはこいつ一匹だけに(06.01.13撮)


 昨年(2005年)は、ついに一度も磯採集に出かけることができずに終わってしまった。前回の更新でご紹介した通り、6月に海ヤド水槽を全メンテナンスし、水中ポンプも交換して、来たるべき夏の新たな来訪者を迎える準備を整えていたというに、海に出張る都合がつかなかった。残念だ。例年なら、前年からの住人が夏の水温上昇などで弱り始めた頃合いに、元気な新入りがドドッと入ってきて、混乱の中で住人の淘汰入れ替わりが進むのだが、昨夏はそれが無かった。で、図らずも同じ顔ぶれでおよそ二年間観察し続けることになったわけだ。ま、わたしのいい加減な飼育ではあるけれど、これで小さな水槽での飼育における、それぞれの生き物の寿命なんてものも、おおよそは勘ぐることができるのはないか、と無理に納得したりしている。

 05年6月時点で生き残っていた住人は、イソヨコバサミ3匹、左側の脚をすべて自切したホンヤドカリが一匹、ケブカガニのチューバッカ中尉、オウギガニの二代目忠治、イボニシのハンニバル博士とアンダーテイカー、それに生息数不明のゴカイ類たちであったが、海水量僅か十数リットルのデスクボーイの夏は、水温や比重の変化が極端にキツイのだ。あんのじょう、初夏から秋口までの間に、櫛の歯が欠けるように(櫛歯の数ほどは元々生体がおらんではないか!と言われるかもしれないけれど、ウチの水槽の櫛の歯のほとんどは砂中のゴカイ類が形成しているのであるw)、相次いでクタバることとあいなった。身罷った面々のいきさつ詳細については本項後半の写真キャプションに記すことにするけれど、しかして更新半年後の現在の住人は、イソヨコ一匹、イボニシ類二匹と無数のゴカイ類だけという体たらくである。


↑このところあまり大きくなっていないハンニバル。
店子のキクスズメばかりがこぞって成長し、戦艦の高角砲みたくなってしまった。
大家もなかなかたいへんである。(06.01.13撮)
↑あいもかわらず岩陰で惰眠をむさぼるアンダーテイカー。
クリルには無関心だがニボシが入ったときの行動は迅速である。(06.01.13撮)

←イソヨコバサミは3匹いたが、最大だった「無節操」と最小の個体が昨年7月に相次いで脱皮に失敗。で、残ったのがこいつである。以後、3〜4度の脱皮をクリアし、現在は「無節操」のサイズを軽く上まっている。やはりこいつも貝殻選びは無節操で、不相応な馬鹿でかい貝にもあっさり入る。写真の貝殻は「無節操」のお古であるが、今では長さ7cmもある貝殻を引きずって歩いている馬鹿である(写真未撮)。
一匹きりになり、もはや宿替えしても紛らわしくないので、そろそろ名前を付けてやろうか。陸ヤドのヤド六にあやかって、イソヨコバサミの「磯六」に安直に決定。「五十六」でも良いのだが、こちらの名は連合艦隊司令長官名なので、軍艦旗色のヤマトホンヤドカリ用に残しておく。「ヤマトイソロク」う〜んいいね〜。また来ないかなあヤマト。長期間飼育するのはたいへん難しいけれど。(06.01.13撮)
←今までイボニシと書いてきたハンニバルだが、アンダーテイカーとの食性や行動また貝殻の形状や色の違いから、こいつはどうもレイシガイではないのかと薄々勘繰っていたけれど、確証が持てないのでほったらかしにしていたところ、ゲストブックに「クリフレイシガイ」ではないかとのご指摘をいただいた。やはりイボニシではなかったようだ。ご指摘ありがとうございます。つうことで、今後、ハンニバルはレイシガイの仲間ということで話を進めることにしますのでご了承を。
ちなみに、アンダーテイカーは正しくイボニシで、なかでも大きく成長するC型という種類らしい。なるほど、今やハンニバルを抜き去り、アンダーテイカーのほうがずいぶん大きい。図鑑によるとレイシガイは10年以上生き、小さなサザエほどにもなるとあるが、うちのハンニバルの成長鈍化は、店子のキクスズメに喰い扶持を奪われてしまうせいなのか?それとも貧乏飼育者に捕らわれたゆえの生き餌不足か?(06.01.13撮)
←レイシガイのハンニバルは、採集時からすでに貝殻にキクスズメをたくさん背負っていたが、自身があまり大きくなっていないにもかかわらず、店子たちばかりどんどん大きく育った。九尺二間長屋が殻口を全周びっしり取り囲んでいるから、大家はタイヘンだ。ハンニバルが餌に近づくと、各々いっちょう前に2本の触角で探りを入れ、先が二つに割れた口吻で餌を器用に千切って食べている。ああ良い生活だなあ。移動する櫓炬燵みたいなもんか。炬燵に入ったまま腹が減ったらひょいと手を伸ばす。ズボラにはなんとも羨ましい生き様である。さすがの生体捕食鬼・恐怖のハンニバル博士も、キクスズメからみりゃ、ただの「駕籠掻き」にすぎないという。ああご苦労さん。飼育者の怠慢で腹が減ったら、口を思いっきりひん曲げて店子を喰えば良いように思うのだが…届かんのか?軟体動物の割りにはカラダが硬いんでないかい。(06.01.13撮)

一匹だけになり、悠々自適の生活を送っているイソヨコバサミの「磯六」。磯六はかなり臆病な個体で、すぐに引っ込む。死んだ無節操は全然人見知りしなかったのに、エライ違いだ。左はクリフレイシガイの「ハンニバル」の後ろ姿。写真では隠れていて見えないC型イボニシの「アンダーテイカー」と、この三個体が現在の海ヤド水槽の「表」の住人であるが、実は砂中のゴカイ類が大増殖中。写真右のガラス面に見える糸屑状の生物はその餓鬼共で、サンゴ岩の表面にも、実はうじゃうじゃ這っている。写真は昨年秋のものだが、現在はすでに2〜3cmの長さに育った。ヤドカリが一匹きりなので捕食される危険も少ないせいか我が物顔である。もちろん、こいつらの親連中も砂中で大とぐろを巻いており、多数健在。ヤドカリやイボニシ用に餌や生ワカメを投入しても、即、砂の中に引っ張り込んでしまうので、結構難儀している。あげく、磯六はそいつらの糞ばかり摘む羽目に。見掛けはキャビアなんだがねえ…(05.11.06撮)

←発情によるバチ抜けでもないくせに、涼しい顔(どんな顔や!)で水中を泳ぐ、ゴカイ類のガキ。海水魚でも居た日には、即刻「パクッ、ンマー!!」なのに、まったくいい気なもんである。
で、こいつらの親どもだが、たぶん数匹は健在で、体長も30cm超。最もデカイやつなどは50cmを超えていると思われる。その大きさや頭部の形状から察するに、ゴカイというより、イソメ属であるみたいだが、なかなか砂上に姿を現わさないので、鮮明な写真が撮れず、種の同定ができない。上手く写真が撮れ、特徴がはっきりするまでは、とりあえずゴカイ類と呼んでおくことにする。まあ、この辺りの環形動物は種名未定のものも多いようだし、しばらくはご勘弁を。(06.01.13撮)
←海ヤド水槽(下)の蛍光ランプが逝ってしまったので、スドーの「カリビアンブルー・8W」に交換してみた。色温度の高い青い光なので、それなりの雰囲気は出るが、撮った写真がモノトーンになってしまうのが難。比較的水深のあるところに暮らすヤマトホンヤドカリなどの飼育には向いているのかも。

二階の陸ヤド舎がグリーンなのは、緑色の塩ビ板を挟んでいるからで、ランプの光色ではない。ビビりのヤド六を多少なりとも和ませてやろうという、飼い主ひとりよがりの余計なお節介である。(05.11.06撮)
←イソヨコバサミの「磯六」が、ペイッ!となんなくその場脱皮。陸ヤドの慎重かつデリケートな脱皮に比べると、いとも投げやりである。脱皮殻を喰いもしないし、すぐに動きだすし。まあ、海中には敵が多いのでスピード優先で、ということか。磯六は7月25日、9月26日、そして写真の11月30日とほぼふた月置きに脱皮して、順調に大きさを増してきた。(05.11.30撮)

↑やはりイソヨコバサミの貝殻選びは無頓着だ。
何だかわざわざ行動しにくそうなものを選んで入っているように見える。
そのコシダカのほうが何かと楽チンだと思うけどなあ。(05.11.06撮)

脱落した面々の顛末

←いつも岩穴に隠れていたケブカガニが、よく外に出てくるようになっていたので、これはそろそろ危ないかなと思っていた矢先、突然ひっくりかえってくたばってしまった。う〜んカニはコロッと死ぬことが多いなあ。さっそく無節操イソヨコなどが集まって来て、褌をパカリと外し、♪捕れ捕れぴちぴちカニ料理〜〜の大宴会。ケブカは脱皮殻だけでもよく宴会になったものだが、今度は本身。よほど旨いに違いない。
夏を迎え、多数の生き物たちが弱ったのは、水中ポンプを交換して環境が変わったことも原因の一つだが、海水容量の少ないデスクボーイでは猛暑による水温急変や蒸発による比重の上昇が極端なので、それがかなりこたえたんだろう。やはり水槽は大きいほうが良いのだが…(05.07.01撮)
ケブカガニ:2004年7月18日採集(南紀白浜)〜2005年7月1日没
←左側の鋏脚と歩脚2本、それに右の鋏脚まで自切してしまったホンヤドカリは、もはや移動もままならない状態。再生のために栄養を採ってもらわねばならないが、これでは餌をゲットするのも困難なうえイボニシやカニの攻撃に遭えばひとたまりもない。ということで、百円ショップでペン立てを購入し、水槽内に沈めて隔離した。(05.07.09撮)
←ペン立て内に隔離されたホンヤドカリは、残った右の歩脚2本のみで健気に頑張っていた。他の住人に横取りされることもなく、ちびちび餌を採りつつ細々と暮らしていたが、脱皮して脚の再生をするには至らず、ついに弱って死んでしまった。こうも一度に多数の脚を失ってしまうと、再生するのも難しいのだろう。(05.07.10撮)
ホンヤドカリ:2004年7月18日採集(南紀白浜)〜2005年7月26日没

←パカパカ喰いまくり、どんどん脱皮して、当水槽一番の巨体に成長していた「無節操」イソヨコバサミだが、どうやら調子に乗り過ぎたようだ。水槽で盛んに動くものが見えたので近づいてよく見ると、激しく貝殻から出たり入ったりを繰り返している。脱皮殻を脱ごうとしているようなのだが、剥離が不完全でうまく脱げないようだ。この写真でも分かるように腹部はすでに脱ぎ終えて右側に垂れているし、眼柄も抜けているようだが、カラダ本体が引っ掛かってしまっていて、どうにもならない。
←写真では動きがわからないので、数枚のショットを繋げ、ジフアニメにして動きを再現してみた。で、こんなことを2時間くらい続けていたが、徐々に体力を消耗したか、そのうちだんだんペースが遅くなってきた。かわいそうに思うけれど、下手に触るわけにもゆかず、こちらとしてはどうしようもない。
←ピストン運動の回数は少なくなってきたが、今度は、移動スパンを大きく取り始め、ぎりぎりまで前に乗りだしてから一気に引っ込む作戦に変更したようだ。考えとるやん。が、数回目のチャレンジに、前に乗りだしすぎ、スポン!コロリン、と…(;´Д`)。この時点でこちらも自力での脱皮を諦め、取り上げて殻を脱がせてやろうとしたが、前甲部がまだ完全に癒着しており、外すのは無理だと判断。かといってこのままにしておくと、即刻カニやイボニシの餌食になるのはミエミエ。もはや復活は期待できないけれど、とりあえず自切ホンヤドカリの隔離されているペン立てに移動した。その後、数時間ほどは弱々しくも殻脱ぎ運動を繰り返していたが、息絶えた。一等元気な無節操野郎だったが、最期は結構あっけなかった。(05.07.19撮)
イソヨコバサミ:2004年7月18日採集(南紀白浜)〜2005年7月19日没

←オウギガニの二代目忠治は、ケブカガニの没後、水槽内唯一のカニとしてのさばっていた。05年の猛暑も無事乗り越えたと思った矢先、あれあれ9月4日にくたばる羽目とあいなった。

二代目忠治は、弟分の仁吉とともに、投入したライブロックから発生したカニで、脱皮殻が多数残っている。ケブカの殻がすぐ喰われてしまうのに比べ、残存率が良いということは、あまり旨くないのであろう。

そこで残っている脱皮殻を並べて成長の跡を紹介しておく。背景の方眼は細いマスが1mm。
←二代目忠治が発生したライブロックを投入したのが、2004年の3月2日である。その後ひと月くらいして大小二匹の幼体を発見した。(カニは「二杯」と数えたほうが正しいのか?こんなに小さいのでもか?喰えなくてもか?)

一番上の写真は、二代目忠治の04年5月27日の脱皮殻。甲幅9mm程度

二番目は、たぶん弟分の仁吉のものだろう。6月頃のもの。仁吉はその後、いつのまにか姿が見えなくなってしまった。

三番目以下はすべて忠治の脱皮殻。04年7月22日回収。甲幅11mm。
四番目。05年1月11日回収。甲幅13mm。

五番目は。05年8月21日回収の脱皮殻。甲幅18mm。ケブカもすでに逝き、ブイブイ言わせていた頃である。

そして一番下は、脱皮殻ではなく05年9月4日発見の亡骸。甲幅は20mmチョイ超えというところ。歩脚などは他の生物に掃除されてしまっていた。そして、水槽からカニはいなくなった。

オウギガニ:2004年3月頃発生(ライブロック)〜2005年9月4日没

↑つうわけで、05年9月以降、水槽の見えるところにいる生物はこの三匹のみ。
C型イボニシのアンダーテイカー(左)の成長の跡がはっきりわかる。
ウチに来てからニボシばっか喰ってるので、育った部分がニボシ色(笑)。
中央がハンニバル。右は磯六。(05.09.10撮)

↓「急いで喰っちまわねえと、長虫の野郎共に曳いて行かれちまうんだよナ」(06.01.13撮)
2006/02/08 (Wed)

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