ヤドカリと磯の生き物の飼育

27話
トップページ ヤドログ 金魚 オカヤドカリ 海ヤド

後輩ども来たる

↑「故郷の磯から後輩どもが団体でやってきたわい(イソ六)」(06.04.20撮)


 海ヤドデスクボーイ水槽の住人は、ヤドカリはイソ六一匹のみで、あとはイボニシとレイシガイとゴカイ類だけ。おまけに水槽の老朽化でじんわりと海水が滲みだしてきている始末。ま、水質も安定はしていることだし、当分はこのままの員数で地味に行こうかと思っていたところ、デカJ(Decapod Journal)メンバーの皆さんから磯採集ツアーのお誘いがあり、んだばと4月18日、日帰りで南紀白浜の磯へ繰りだしてきた。

 当日は薄曇りで暑くも寒くもなく、潮もけっこう引いて、愉しい一日となった。現地の様子はDeca-Jのレポート(Decapod Report Vol.4:「春の南紀の磯」)に詳しいので、そちらにお任せすることにして、ここでは、相も変わらぬ馬鹿馬鹿しい海ヤド水槽のご報告ということにさせていただく。

 今回の採集地も、現住人のイソ六、ハンニバル、アンダーテイカーが暮らしていたお馴染みの磯だ。2年弱の時間の経過はあるけれど、彼らにとって故郷の同じ町内の住人ばかりであるからして、ちょいちょい喰ったり喰われたりはあるだろうが、おおむねは仲良く暮らしていただけるだろうと、バケツをぶら下げて海に入った。

 水槽の水漏れのこともあり、積極的に採集するつもりはなかったのだが、一度タイドプールを覗き込んでしまうと、知らぬ間に網が出ている、というのが磯遊びの必定。帰り際に戻してやれば良いと思いつつ、とりあえずヒョイヒョイ掬ってしまう。で、戻って冷静になって見ると、あんのじょう、えらい捕り過ぎということに。今回の場合は、特にイボニシとレイシガイの餌用にと捕った巻貝連中の数が多過ぎた。イボニシは、次々と脱がれるヤドカリやカニの脱皮殻なんかを処理して満腹してしまい、アマオブネガイやスガイと並んで寝ているような始末。そのうえ大振りの個体を持ち帰ってしまった、カタベガイやシッタカの食欲たるやもの凄く、水槽全体を一週間でピカピカにしてしまい、以後はひと袋300円程もする「三陸産塩蔵ワカメ」の消費ペースが甚だしい。かといって中国産大袋100円也の安物は、連中あまり喰わないから、これが実に痛い。

 この記事を作り始めたのは4月末なのに、なんやかやと用事が入って、もはや二週間が経過してしまった。これらの写真を撮影してからも、新しい出来事は目白押しなのだが、とりあえずは採集直後の様子をということで、この辺で見切りアップしてしまうことにする。新メンバーの面々の紹介は写真のキャプションで。まあ、当海ヤド水槽基本方針の、『サバイバル水槽』というのは不変なのであるからして、毎度同様、今後どんどん淘汰されて行く様子を観察して面白がるわけだけれど、現状では個体数が多過ぎて、一体どいつがどうしたんだか、サッパリわからないのであります。



↑二年前の夏、イソ六やイボニシを採集した南紀白浜の磯。
今回も全く同じ場所を訪れた。干潮の4時間ほど前の撮影。(06.04.18撮)
↑磯をウロウロすると結構疲れる。
なので、おっさんは気に入った小さなタイドプールを決めると、
そこにしゃがみ込んであまり動かないのであった。
(結果、あまり珍しい生き物には出会えないつうことに…)

↑採集2日後の海ヤドデスクボーイ水槽。(06.04.20撮)
巻貝やイソクズガニ等の餌にと、緑藻類や褐藻類も少し持ち帰ってきた。
水槽もコケでドロドロだし、これで当分は行けるだろうと目論んでいたが…
まずは左の「穴あき岩」が貝どもの集中攻撃を受け、一昼夜ですでにツルツルに。
↑で、上の写真から10日後。(06.04.30撮)
カタベガイやシッタカの旺盛な食欲を、少々侮っていたようだ。
海草類は緑藻のミル以外は跡形もなく、水槽ガラスはピッカピカ。
中央のサンゴ岩や右側のライブロックのコケも、きれいに掃除されてしまった。
慌てて入れた「塩蔵ワカメ」(左側)だが、この量で一日は持たない。
連中、高い国産のワカメしかあまり喰わないし、この先お財布が思いやられる。
頑張って狩ってくれ!ハンニバル&アンダーテイカー。

↑急に賑やかになった海ヤド槽。先住のイソ六(右下)はさすがに貫録がある。
(06.04.19撮)
↑小さなイソギンチャクやウニも新たに仲間入り。
大量に湧いているゴカイ類のガキどもも、これからは安泰とは言えんぞ。
(06.04.19撮)

さて、住人を紹介しよう。
まずはヤドカリたち。


←先住人のイソヨコバサミ「磯六」。さすがに約2年のキャリアは伊達ではなく、ひと際デカイ。同郷の新入りたちの大量来入に、かなりエキサイト気味で、近くを通るヤドカリを片っ端から捕まえては、貝殻を抱き込み、貝口からちょんちょんと突ついて悦に入っている。写真のケアシのように、異種のヤドカリならすぐに放免して貰えるが、イソヨコバサミだけはそうはいかない。逃げようと少しでも動くと、すぐにイソ六の脚が伸びてくる。なので、イソ六の周囲には、逃がして貰えないイソヨコたちが常に二三匹転がっていて、貧相なイソ六ハーレムを形成している。
(06.04.30撮)
←ポピュラーな種なのに、何故か当水槽初登場のケアシ ホシゾラホンヤドカリ(訂正以下※参照)。前回の採集地と同じ磯なのだが…今回採集した岩陰は、全部が全部ケアシばかりだったので、ヤマト同様、一カ所に固まって暮らしているようだ。草食性が強い傾向があるようなので、好きな種類の流れ藻がある場所に集まっているのかもしれない。上写真(イソ六に乗っている)のケアシは、ウチのストック外産貝殻に宿替えしているが、現地ではほとんどの個体がこのクボガイの貝殻を背負っていた。黒と銀色ツートーンのクボガイは、赤い触角に良く似合っている。(06.04.19撮)
(※BBSに、本種は「ホシゾラホンヤドカリ」ではないかというご指摘をいただきました。なんでも脚の点々模様が、薄地に黒点なのがケアシ、黒地に薄点なのがホシゾラだそうです。このように、いたっていいかげんな飼育者の作なので、当ページを図鑑的に使用しないようにね)
←しばらくぶりに、ホンヤドカリ(右)もやって来た。これでポピュラー海ヤド三種が同居ということに。水槽を鋭意清掃中のスガイに乗っかり、ケアシホンヤドカリと並んで記念撮影。あいかわらず地味な意匠だが、わたしには好ましい帝国陸軍色である。ホンヤドカリはイソヨコやケアシに比べ、飼育下での耐性はあると言われているが、わたしの観察では、意外なウイークポイントがあると思われる。動きは敏捷なのだが、わりと簡単に自切してしまうので、ウチのようなサバイバル環境では、結果、捕食されたり衰弱死する傾向が強いようだ。イソヨコは動きは鈍いし臆病だが、滅多に自切することがない。三種おのおの数匹ずつと、海草に付いてきた稚ヤド(種名未判別)が数匹暮らしている。
(06.04.19撮)

↑水槽を散策中のホンヤドカリ(中央)とケアシホンヤドカリ。
この先、キミ達には、厳しいサバイバルが待ち受けているのだよ。
(06.04.20撮)

↑新顔のイソギンチャク。胴体の直径は20mmくらい。
イソギンを飼育するのは初めてなので、どうなることやら愉しみ。
種名も良くは知らない。ヨロイなのかヒメなのか?
ピンセットで餌を与えてやると素直に喰うところは好ましく思うぞ。
(06.04.19撮)

イソギンチャクとムラサキウニ

←小さなイソギンチャクは輸送中の揺れるバケツの中、足場が無くて難儀したと見え、弱り気味のヨツハモガニの二本の大バサミをちゃっかり土台にしてしまった。おかげでヨツハモガニは身動きがとれず、しばらくもがいていたが、そのまま昇天。なんとも情けない。水槽に移してからも、なかなか離さなかったので、他のヤドカリやカニ連がかわるがわる摘み食いに訪れた。当然、葬儀屋アンダーテイカー(C型イボニシ)も嬉しげにやって来ていた。
(06.04.19撮)
←身動きならぬまま、褌まで外され、ヤド連の宴の憂き目にあったヨツハモガニだが、足元で宴会をやられてばかりではイソギンチャクの面目がたたん、とばかり、口元に運ぶ試みを。しかし、大きすぎたのか、しばらくするとあっさり諦めてペイと離し、自分だけそそくさと歩いてライブロックの裏側に隠れに行きましたとさ。しかしヨロイイソギンチャクにしては、全然石粒を体に付けないなあ。別の種類なのかな?
(06.04.19撮)
←磯採集ったって、わたしの場合、持ってゆくのは金魚メンテ用の小さな手網とバケツだけである。ウニやイソギンを引っぱがすような熱意は元々持ちあわせていない。今回、上写真のようなタイドプールをぼんやり覗いていたら、コブシ大のゴロタ石に、イソギンチャクとこの小さなムラサキウニがたまたま並んでくっついていたのだ。ナントモお誂え向きの「バリューセット」なのであった。早速「テイクアウトで」ということに。ウニはとげまで測っても直径20mm弱のミニミニサイズだ。しかし、採集後半月経った現在では、折れたとげも徐々に再生し色艶も良くなった。ちょいちょい移動して餌を探しているようだが…。しかしあまり大きくならないで欲しい。南海産とはいえ、姿はちゃんとウニである。あたしゃ大好物なんだよぉ、ウニ。ウニのおつまみ!クーッ
(06.04.19撮)

↑「また、ドえらいところに連れられて来てしまったものよのう…」
(06.04.20撮)

カニの面々

←実はイソスジエビも一匹だけ掬って来たのだけれど、バケツ輸送中に弱ってしまった。水槽に移したときにはすでに虫の息で、真もなく御陀仏に。早速イソヨコバサミとケアシホンヤドカリが綱引き。ケアシにはスガイが吸い付いていて動きが鈍い。イソヨコ優勢である。
(06.04.19撮)
←またまたやって来たぞ、ケブカガニ。右の鋏脚を欠損しているが、元気ではある。脱皮すれば、またデリーシャスなその脱皮殻が住人の人気を呼ぶであろう。現在甲幅13mm程度。先代ケブカガニのチューバッカと同じ穴ぐらに迷わず入居した。同じ穴のムジナ。
(06.04.19撮)
←イソクズガニにも再びご来宅いただいた。こののんびりしたジャイアント馬場風の動きが、たまらなくヨイ。また、めったやたらと体に海草を付けまくるパンクスぶりも見物で飽きない。常に水槽にいてほしいカニである。しかしこいつら、混泳させるとやはり弱い。少しでも長く観察したいので、今回は大小2匹を採集してきたのだが、うちのサバイバル水槽は、スローモーなこのカニにとってはやはり厳しかった。一週間後のある夜、小振りの個体が早や餌食に。「♪夜とン、朝の間に〜」(byピーター:現 池畑慎之介)、あなたの身に一体何が起こったのか飼い主は知らないが、告別式はアンダーテイカーがキッチリ執り行なった。
(06.04.19撮)
←採集時は上写真のように、細かな褐藻の屑を身に纏っていたイソクズガニ(小)だが、一日経つと、コケのはびこったサンゴ岩の窪みに腰を据え、キッチリ擬態完了。ハサミだけがセッセカと動く。ただ、カラダの形状が、イソクズガニとは若干違っているようにも思われる。ワタクズガニの仲間だったのかもしれないが、もはや住人全員参加の「カニ宴会」のあとなので、これらの写真以外に確認するすべがない。
(06.04.20撮)
←こちらは存命中、やや大振りなイソクズガニ(手前はイソヨコバサミ)。この生物密度濃厚な危険いっぱいの水槽では、前回同様、長い生存は期待できそうもない。餌も、天然の海草が無くなって塩蔵ワカメ専門になると、食がだんだん落ちてしまうので、結構デリケートなようだ。ま、冷凍シーフードや煮干しなども喰ってはいるが。時々、モンゴウイカの白い切り身を頭に乗っけて、超目立っていたりする。仕草や生態が面白いので、敵の少ない専用水槽をしつらえて、じっくり飼育・観察してみたいカニではある。
(06.04.30撮)
←先にイソギンのところで紹介した、ヨツハモガニの現地での勇姿。ごらんのように威嚇したりして、結構強そうなオスであったのだが、その顛末は前述通り。イソギンチャクに踏まれて昇天というトホホな運命だった。イソクズガニ同様クモガニの仲間だが、眼柄の間の額棘が離れていて甲も滑らかである。雄の鋏脚はナカナカ立派。甲幅は15mm超あった。
(06.04.18/プアマリナさん撮)
←オウギガニもやって来た。現在甲幅12mm程度か。今は岩陰に隠れて、コソコソ暮らしているが、夜になると、あたりを徘徊して、岩組などをひっくり返している。大きくなるに連れ、ますますこいつの悪さに悩まされるであろうことを、経験上覚悟はしている。
(06.04.20撮)
←こちらは海草にくっ付いてきたと思われるイソガニ系の幼体。普段は隠れているので観察できないが、先日、脱皮殻を発見。甲幅6mm程度。たぶんヒライソガニだろう。
(06.04.19撮)

↑ミルに登って何を思うかホンヤドカリ。
(06.04.20撮)
住人覚え書/2006.5.3現在
●先住者(2004.7.18採集)
・磯六(イソヨコバサミ)
・ハンニバル(クリフレイシガイ)
・アンダーテイカー(C型イボニシ)
・ゴカイ類:無数
●新入居者(2006.4.18採集時)
・イソヨコバサミ:8 ホンヤドカリ:5 ケアシホンヤドカリ:5 稚ヤドカリ:5〜10
・ケブカガニ:1 イソクズガニ:2 ヨツハモガニ:1 オウギガニ:1 ヒライソガニ(幼):1
・イソスジエビ:1
・ヨロイ(ヒメ?)イソギンチャク:1
・ムラサキウニ:1
・シッタカ:3 クボガイ:7 コシダカガンガラ:3 スガイ:3
・アマオブネガイ:2 イシダタミガイ:1 カタベガイ:2
●過去帳
・没 ヨツハモガニ:1 イソスジエビ:1(4.19)
・没 ホンヤドカリ(犯ハンニバル):1(4.20)
・没 ケアシホンヤドカリ:1(4.23)
・没 イソクズガニ:1(4.24)
・没 イソヨコバサミ:1(4.27)
・没 コシダカガンガラ(犯アンダーテイカー):1(5.3)

巻貝(ハンニバル&アンダーテイカーの餌)たち

←ホンヤドに登られているカタベガイ(左)は貝経が5cm以上もあって、デカイ。デ貝である。サザエの仲間だというが不味いらしい。こいつが動くと岩組みは崩れ、ガラス蓋は持ち上がり、塩蔵ワカメは消滅する。我ながら何をトチ狂って持ち帰ったのか不明。この体格差ではさすがのハンニバルも滅多には狩れまい。まあ貧乏飼い主の水槽なので、そのうち餓死するのを待つしかないか。中央はチビホンヤド。手前はクボガイ。
(06.04.20撮)
←こちらは小振りのカタベガイ。上写真の右側にいる個体。貝口が四角張っているのが特徴。サザエのように貝殻にトゲがある。
(06.04.20撮)
←シッタカ(バテイラ)の苔取り能力は素晴らしい。つうか、ちょっと喰い過ぎ気味である。一生懸命ガラス掃除をしている顔(?)の表情(というか模様)が、案外可愛らしい。大2匹、小1匹がお掃除スキャニング中。
(06.04.20撮)
←新入りが水槽に入った翌日、早速、裸でウロウロしていた自切ホンヤドを捕獲したハンニバル(クリフレイシガイ)。たまたま捕まえる瞬間を見ていたが、歩いているホンヤドの鋏脚に、にゅっと自分の脚をからませ、包み込むようにして確保。暴れるホンヤドを、写真のように「腕ひしぎ逆十字固め」に極めてしまった。こうなると、いくらもがいても逃げられない。ゆっくりとまる二日かけて食べてしまった。
(06.04.20撮)
←ホンヤドを捕食してご賞味中のハンニバルに、自ら近づいて、なんとキスする馬鹿スガイ。ホンヤドが捕まっていなければ、餌食になるのは自分なのである。ハンニバルの殻に付いている苔がお目当てなのだろうとは思うが、あまりにも無謀な行為だ。しかしハンニバルが手一杯なのを知ってわざと挑発しているのなら、あっぱれ!だ。キミのような奴を文字通りの「ナイスガイ」と言ったりする。小林旭はマイトガイ。
(06.04.20撮)
←新入居者の香りを感じたか、早速岩陰からオモテに出てきたアンダーテイカー(C型イボニシ)。心なしか大変嬉しそうに見える。今にも彼の鼻歌が聞こえてくるようだ。「♪う〜みの底から 旨そ〜な匂いがするわ 朝飯前の攻撃すんで 揚げるお芋の魚雷がた〜」、っトォ。(潜水艦の臺所の唄)
(06.04.19撮)

↓「可愛い娘ちゃん。恥ずかしがらんと出といでえな、なあなあ」(06.04.19撮)
2006/05/10 (Wed)

26話へ 28話へ

(c)Copyright "cave" All right reserved. テキスト・掲載画像の無断転載を禁じます。