ヤドカリと磯の生き物の飼育

24話
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イボニシくん

↑元気だったホンヤドカリ(チビ)だが、いつのまにか行方不明に。(05.01.19撮)


 二ヶ月ぶりの海ヤドタンクのお話。今回はまだ更新停滞時に撮影した写真が残っているので、多少重複するけれど紹介しきってしまおうという魂胆だ。毎年、冬の間の住人は概ね息災で安定しているのだが、春先から初夏にかけてはポロポロと脱落していってしまう。今年もご多分に漏れず、ヤドカリ連中が二匹お陀仏になったようである。まずは、サバイバルを最後まで生き残るかと思われたチビホンヤドカリの姿がいつのまにやら見られなくなってしまった。脱皮の失敗か捕食されたのかもはっきりとしない。上に載せた写真が1月19日の撮影なので、行方不明になったのはそれ以降だけれど、死骸や脱走の形跡は確認されていない。もう一匹の脱落者は、イソヨコバサミだが、こちらはたぶん脱皮の失敗だろう。3月5日に土左衛門を発見したが、瞬く間に死体愛好癖のあるイボニシ2号に吸い付かれてしまったので、亡骸はそのまま葬儀屋2号にお任せすることにした。他の住人に変化はなく、4月19日現在、健在なのは、ホンヤドカリ:1,イソヨコバサミ:3,ケブカガニ:1,イソガニ:1,イボニシ:2,ゴカイ:総数不明、という顔ぶれである。

 ゴカイに悩まされることがひとつ増えた。ヤドカリのエサを砂中に引っ張り込まれてしまうのはあいかわらずだし、この春も水中射精で水槽を真っ白にされているのだが、それとは別に、大量の糞を底面フィルターの下側にひりだしているようで、濾過を回している水中モーターのスクリューをすぐ詰らせてしまうので困っている。ネットで保護をしているのだけれど、やつらの糞には結構粘着力があって、それが細かいサンゴ砂をセメントのように固めてしまい、パイプを詰らせてしまうのだ。もともとは粗目のサンゴ砂しか入れていなかったのだけれど、明石から、砂浜に棲むユビナガホンヤドカリばかり大量にやって来た時に、棲息地環境に近づけようと細めの砂を混ぜてやったのが仇となった。なので、水中モーターは2日置きに砂取りをせねば止まってしまうのである。今はまだしも、これからは水温が上昇してくるので、水流が止まってしまうのは厄介だ。デカイ奴はバチ抜けでもして、自己間引きしてくれないものだろうか。


↑クリルの存在を察知したイボニシ1号(ハンニバル)
現場に急行しようとするその勇姿は、
往年のドイツ重駆逐戦車「ヤークトパンター」を彷彿させるのであった。

 さて、今回はイボニシにフォーカスを合わせてみよう。イボニシといえば磯ではポピュラーな肉食巻貝だ。ポジション上位には、足で他の生物を包み込んで喰ってしまうツメタガイがいて、もっと豪快なのは、サンゴ礁の悪役オニヒトデを屠るという出羽三山御用達のホラガイなんてのもいらっしゃる。しかしイボニシは、最近この肉食という特徴よりも、環境ホルモンが与える影響の一例として取り上げられることが多いようだ。定置網や船底などに貝などが付くのを予防するために、薬剤(有機スズ)を混ぜた塗料でさかんに塗装していた時期があり、これが溶け出して海水を汚染した結果、1990年代になって、内分泌攪乱物質(いわゆる環境ホルモン)が与える影響としての「新腹足目貝類のインポセックス」問題が明るみに出た。インポセックス(どうも俗っぽいなあ…他にマシな言い方無かったんか)というのは、「メスのオス化」という意味で、イボニシなどのメスの体にペニスが生じる現象らしい。進行すると卵を産み出す卵輸管がふさがり、産卵ができなくなって個体数が激減し、瀬戸内海中央部などでは一時は絶滅も危惧されたのである。環境問題がとやかく言われるようになった最近は、ようやく有機スズの使用も減少し、バイ貝やイボニシなどの新腹足目貝類も増えてきているようではあるが。

 とはいえ、ウチの2匹のイボニシ、インポセックスどころかオスかメスかも解りゃしない。貝なんてどこをどう見りゃ良いんだか。あたし的には、ま、いいか。である。さて、お馴染みイボニシ1号(ハンニバル)君は、生体捕食愛好者であるが、残念ながら、現在捕食に適当な貝類はテメーが全部喰っちまったので皆無である。その代わりというか、クリルにだけは恐ろしく敏感な反応を示す。もう一匹の2号は死体専門である。土左衛門が出ると一番に吸い付いているが、こちらはクリルには全く反応せず、1号があまり反応しない煮干しに対して非常に敏感である。たかが巻貝とはいえ、その嗜好の極端な違いには驚かされる。


(※2006.10.14追記:本文は2005年4月に記したものですが、その後、記事中のイボニシ1号(ハンニバル)は「クリフレイシガイ」、2号(アンダーテイカー)は「C型イボニシ」ではないかというご指摘をいただきましたので、追記しておきます)

↑ハンニバルが食事採取に熱心なのは自分が喰うためだけではなかった!
その背中に無数の居候が入居しているので動き回って養わねばならないのだ。
まさに、動く「九龍城砦」というか…(ハウルの動く城はまだ観てない)。
いつも腹を空かせた兄弟姉妹が箸を手にして兄ちゃんの首尾を待っている…
キミは苦労人、左門豊作だったのか? お京さんはどうした?(04.12.03撮)

←我、クリル投入を感知せり【イボニシ1号(ハンニバル)】

生体愛好者のハンニバルだが、最近は捕食すべき獲物がいなくなってしまったので、クリルの香りが漂うのをいまや遅しと待ち受けている。投入されるやいなや、アンテナ感度を最大にして猛突進を始める。その方向性はおおむね正確で、まず一番に到達している。(04.11.27撮)
←クリルに直進するためには、3cm近くある岩の隙間もものともせず、渡ってしまうのである。岩の上、ハンニバルが通った軌跡に、糸のようなものが見えるが、これは粘度を帯びた分泌物で、時々カタツムリのように出しているようだ。
←よっこらしょと器用にトラバース。これができるということは、イボニシは視力もなかなか優れているようだが、一体どれが目なのか? 
粘液は常に出しているわけではない。岩を渡るために分泌物をザイルのようにして使っている、と思うのは買いかぶり過ぎか?
←クリルは目前であるが、砂地の部分に置いてあるので、足がカラ回りして歩きにくいのなんの。多少速度は落ちるが、そこは、ヤークトパンター。無限軌道装備で悪路も進軍。
←やれやれ、やっとクリルに辿り着いたわい。今回も一番乗りであった。

←【イボニシ2号(アンダーテイカー)】

イボニシ1号にはハンニバル博士という愛称がある。なら2号は葬儀屋(アンダーテイカー)にしといてやろう。この日、イソヨコバサミが一匹死んだのだが、さっそく仕事に駆けつけて来ていた。貝の色柄も地味目なんで、商売にはいいんじゃないか。(05.03.05撮)

↑イソヨコバサミの亡骸に、葬儀屋アンダーテイカーが駆けつけていたが、
この日は珍しくも、生体嗜好のはずのハンニバル様までお出まし。
互いの存在を気にしつつも、始めてのツーショットである。(05.03.05撮)

←イソヨコバサミの残数は三匹。こいつは、ヤマトホンヤドカリが残した空家をちゃっかりせしめている。(04.12.22撮)
←こちらは小振りのイソヨコである。チビホンヤドの行方不明で、現在では水槽内最小のヤドとなった。(04.11.27撮)
←一匹きりになった、ホンヤドカリ。こいつはマイペースで落ち着きがある。イソヨコバサミより頭も良いようで、餌を採るのにも無駄が少ない。悠々と暮らしているように見える。(04.11.27撮)
←「ぼやフォト」で紹介した、ケブカガニのツメを再録。絨毯のような毛に覆われているので、先っぽだけが覗くことになり、独特の趣がある。なにやら猫みたい。(04.11.27撮)
←カニの忠治である。現在甲幅15mmくらいか。ハサミは武骨にいかつく、なんか昔のロボットみたいな風情である。そろそろ種類を同定しなきゃならないなあ。(05.03.05撮)
←イソヨコバサミの死骸に集まる、海ヤドタンク住人の面々。「掃除戦隊スカベンジャー」(05.03.05撮)

↓で、お前さんがた、いったい何者なんだと。(04.12.11撮)
2005/04/20 (Wed)

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