ヤドカリと磯の生き物の飼育

22話
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淘汰は続くよ〜どこまでも?

↑オイラ、ひとりぼっちになっちゃったよ。みんなどこへ行ったン?(9.23撮)


 水量わずか10リットル少々のデスクボーイ海水水槽。7月18日に白浜から大量に拉致されてきた無脊椎な生き物たちだが、およそ2か月あまりの時間を経て、残念ながら(というか非情な飼育者の目論見通り)、その数を減らしてきている。何回かは「Kin-Yado guestbook」上にご報告してきたけれど、その経緯と現在の状況を簡単にまとめておこう。

 今回の写真のほとんどは9月23日に撮影したものだ。同日、メンテと海水換えを行なって、水槽がさっぱりしたのでカメラを持ちだしたのだが、ついでに現在の生息状況も確認した。ただし、いたってイイカゲンな確認の仕方なので数などは正確とは言いきれない。カニどもはサンゴ岩を縦横に巡っているトンネルの中に潜って棲み分けているし、小型のヤドカリたちも岩穴に隠れている場合があるからだ。底砂をほじくりかえすと水が濁るのでゴカイの状況もチェックしていない。しかし採集当初の賑やかさと比べると、巻貝の激減などで、うら寂しいほどに住人は減った。

 前回のレポート〈8月3日)時点ではまだ全数が棲息していたが、まず直後の8月6日に「クボガイ」がイボニシによって捕食され、翌7日には「ゼブラガニ」が岩の間にひっくり返っていた。脚がかなりの数欠損していたので、脱皮モードが促されたのかと思い、「おお、脱皮したのか」と取り上げてみると、生身だった。死因は不明だが、遺体の状況を見た限りではイボニシの仕業とは断定できなかった。他のカニが犯人の可能性もあるにはあるが、この「ゼブラガニ」、自然界で共生しているはずの強面系保護者のラッパウニがいないため、超スローモーなくせに、さすらいのフーテン生活を余儀なくされていたし、外敵から身を守るすべが無かったのは哀れだった。食性も不明なので、餓死した可能性もある。その後、アテネオリンピック期間中は、連日、巻貝がイボニシに捕食され続け、餌食になったのは、「クボガイ」2、「イシダタミ」3、「アマオブネガイ」2、「スガイ」3で、早い話がイボニシ以外の貝は全滅したわけだ。そしてなんと2匹いた「イボニシ」も同種間捕食の結果、勝ったほうだけが生き残り、いまや水槽の中の貝類は、ハンニバル・イボニシ博士1匹のみという惨状になっている。

 カニの仲間はゼブラガニ以外はふてぶてしく健在で、「ケブカガニ」も8月24日に脱皮した。毛深いもんで、カラダを大きめに見積もっていたようで、脱ぎ捨てられた脱皮殻をみると意外に小さいことが判明。ただの着膨れだったのか。またこの殻、ヤドカリどもがほとんど平らげてしまって収集することができなかった。ケブカの殻はどうやら美味いようである。ライブロック産のイソガニ、「二代目忠治」と「仁吉」はおのおの一回の脱皮を行なった。こちらの脱皮殻は不味いようで、投げ捨てられていたので収集した。すでに小さいのから順に3個ずつ揃っている。「イソクズガニ」ものんびりマイペースで健在だ。「ホンヤドカリ」と「イソヨコバサミ」も数を減らしたが、死骸を確認できたのは脱走死した3匹だけである。あとは知らぬ間に水槽からかき消えてしまった。特に「ヤマトホンヤドカリ」は4匹いたが、3匹の姿がいつのまにか行方不明に。うち一匹は大きい個体で、カニなどとやりあっても負けそうになく感じられたのだが、不在に気づいたときは、住居にしていた貝殻が空家状態でむなしく転がっているだけだった。???である。イボニシ犯人説は動きの速さから見て無理筋なので、考えられるのはケブカとイソガニだ。岩穴の中に素早く引きずり込んでしまうので、死骸が確認できない可能性はある。しかし、残飯はポイと穴から放り投げるはずなんだが・・・。残ったヤマト1匹は9月13日に脱皮した。こいつは元気である。

 水槽内で最も成長が著しく、活発なのが「イソスジエビ」である。採集時10mm程度だった体長は、いまや30mmを軽く超えてしまった。食欲もすこぶる旺盛で、共食いともいえるクリルが大好物というのも面白い。


※写真・種名などを参考にされる方は、当欄の記述を鵜呑みにすることなく、必ず、図鑑・専門サイトなどで確認されますよう。また、明らかな間違いなどがありましたら、アクアリウム専用ゲストブックにてご指摘いただければ助かります。(cave)


↑イソスジエビは元気ハツラツである。みるみるうちに大きくなってきた。
←【イボニシ】

ヤドカリタンクの悪役商会 その1

水槽内の全巻貝を食べ尽くした、悪の最高峰、ハンニバル・イボニシ博士。なんと同類のイボニシまで屠ってしまった。不気味な奴ではあるが、そのクールな手際と生への執着心は見上げたものがある。今の人間界は“アウトロー”が注目されている時代でもある。管理人は案外、その生き様から元気を貰っていたりして・・・
←【ケブカガニ】

ヤドカリタンクの悪役商会 その2

岩穴でのんびり昼寝しているように思わせておいて、ここぞ、と言うときのソツのなさといったらない。チューバッカ中尉は、的確なタイミングで素早く行動し、欲しいものを手に入れるためのツボをしっかり押えているプロである。かのゴルゴ13がいみじくも言った、不死身でいられる理由、それは「俺が兎のように臆病だからだ」
←【イソガニ】

ヤドカリタンクの悪役商会 その3

二代目忠治と仁吉は兄弟分だが、お互いに寄りかかることなく、フリーランスで行動している。シノギは個々に。ひとたびシマが重なったときは敵である。忠治がサンゴ岩をヤサにしているときは、仁吉はライブロックに住みつき、ときどきテリトリーを入れ替える。このあたりのヤクザ同士の仁義が見事に守られているのであった。撮影時、仁吉の姿は確認できなかった。渡世人は旅に出たのか。(写真は忠治)
←【イボニシの捕食】

イボニシの移動速度は思ったより速い。クボガイが近づいたと見るや、急速接近し、吸い付く(円内)。死の接吻である。ひとたび捕まえて寝技に持ち込まれてしまうと、もう逃げることは難しい。獲物の蓋が厚い場合は、歯舌で隙間をこじ開けるようにしてグイグイと首を深く差し入れて行く。そして数時間のディープ・キス。互いの体が離れるときには、獲物はすでに魂を抜かれている。すかさずヤドカリたちが残飯処理にやってくる。(04.08.07撮影)
←【故・スガイ】

せっせとガラス清掃に勤しんでいた、イシダタミ、スガイ、アマオブネガイたちだったが、彼らを待ち受けていたのは、「♪昨日イシダタミ、今日スガイ、明日はアマオかクボガイか〜〜♪」と、日替りでイボニシに屠られてゆく運命だった。そして水槽に残されたものは、犠牲者の数だけの、小穴の開いた丸い蓋〈写真左下)だった。ただし「♪穴は夜開〜く」とは限らない。終日危険の運次第。イボニシの歯舌から出る酸で溶かされて開いた穴である。(04.08.07撮影)
←【イソヨコバサミ/イボニシが残したクボガイ亡骸の争奪戦】

「お、やっと空いたぜ、この家作。具合良いことに中に賄いまで残っとるわい。喰うてから入居してもたろ」「ち、ちょっと待たんかい、最前からワイが目えつけとったんやないかい、それ」「やかましい!儂の方が先に唾つけ・・」「なにコラ、いてもたろか!」と、ケンカはするが、決して殺し合いには発展しない、ヤドカリ族たちなのであった。〈04.08.07撮影)
←【イボニシVSホンヤドカリのクリルで綱引き】

もはや水槽内の貝類を食い尽くしてしまった、ハンニバル・イボニシ博士。生ワカメも食べてはいるが、藻食ではいまいち物足りぬ。やはりヤドカリやカニ用の肉っ気のある餌を確保強奪しないと生きてはゆけないのである。餌が投入されたら、嗅覚を研ぎ澄ませて急いで餌に近づき、ぐいと押え込んでしまわないことには、カニに奪われて持っていかれてしまう。まあ相手がホンヤドカリ程度の三下なら、ちょろいもんである。
←【ホンヤドカリ】

ホンヤドカリは当初5匹いたが、うち2匹が水槽外に脱走した。いずれも約半日後に埃まみれで干涸びて発見されたが、1匹はなんと水槽内でじんわり蘇生した。脱走イソヨコバサミは2匹とも短時間であっけなく死んでしまったのに、ホンヤド強し!これぞ日本のスタンダード。写真右下のチビホンヤドを含め、現在数4匹。

←【イソヨコバサミ】

当初7匹いたイソヨコバサミは、2匹は水槽外脱走死。1匹は衰弱死したようで現在数は4。ホンヤドカリは自分の体に合った貝殻を宿とするが、こいつらは全く節操がない。自分の体より大きめの貝殻を好む傾向があり、重くて動けないほどのものや、非常に入りにくい形のものにも平気で入り、そのまま辛そうな日常生活を送
ている。体の作りもやや原始的にみえるのだが、少しバカなのでは?イソヨコバカミたい。

↑エエイ、退け退けこわっぱ共。大和守さまのお通りだい。
←【ヤマトホンヤドカリ】

4個体採集したのに、いつのまにか1匹のみに。2匹はひとまわり小さい個体だったが、もう1匹は現存のこの個体と同じくらいのサイズだった。普段は岩陰に座り込んでじっとしていることが多いのだが、力はかなり強いのでカニにも充分対抗できると見たのだが・・・。この種、通常はホンヤドカリより水深のあるところに暮らしているようなので、僅か10cm少々しか水深のないデスクボーイ水槽で、体内リズムを狂わされて弱ってしまったのだろうか?・・ンなことないわなあ。先日残った一匹が脱皮したが、その脱皮殻はやはり大きく、死骸が跡形も残らないのは非常に不可解。いぜん3匹は消息不明で、また原因も不明なのである。

生ワカメをハサミで切り取って顎脚に挟み、擦り付けるように回転させて食べている。右側のハサミはオカヤド並みに立派。〈上写真)

ヤマトホンヤドカリの腹側のようす。少しブレてしまったが、脚の構造がわかる。脱皮後10日くらいの状態。〈下写真)
←【イソクズガニ】

1個体がかわらず健在。まあ、このお方だけは日々マイペースなこと。穴に隠れることもなく、思い思いの場所で、日がな何かを摘んで口に運んだり、体にくっつけたりしている。最近藻類は生ワカメしか入れていないので、飽きたようなときは、ライブロックやサンゴ砂を突ついていることも多い。ニボシやクリルが入ると、敏感に察知し、餌の方向にじりじり寄ってくる。危険が近づくと観るや、少し移動スピードが増すが、それにしてもちとのんびりし過ぎではないか。自分の擬態能力を過信し過ぎていることに気づいていない。けど、気づけなくて当然か、なにせカニだもの。
←【イソスジエビ】

1個体がそのまま健在。水質の変化には敏感である。採集時の3倍の体長に成長した。餌に対しても非常に貪欲。ヤドカリの隙を狙って餌に跳びつき、脚で挟んだまま後方へ跳ね、その勢いで引き裂いて食べる。触角も長くなったのでこれがかえって食事中のヤドカリに触れてしまい、「うっとうしいわい!」とハサミで払われることが多い。体が透き通っているので、体内の食物がよく見え、心臓の鼓動するようすも観ることができる。

↓「まあ、最後に残るのはオレだな」と、自信満々のチビホンヤドカリ。あたしもそんな気が・・・
2004/09/25 (Sat)

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