金魚と淡水魚の飼育
32話
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海軍兵学校、その後

激しいスパーリング後、小休止する「オジサン」(手前)と「オヤジ」。
カラダはでこぼこ、ウロコはハゲハゲだ。



 金魚のふたつの水槽は、毎週の水換えがなんとか水カビの発生を防いでいて、平穏である。おかげでヒータもほとんどスイッチが入ることはなく、おおむね18℃前後で安定している。15℃くらいまで下がるとオンになるように設定してあるのだが、これは金魚のためというより、あたし用の設定である。あなた、何たって週いちの掃除・水換えですから、これ以上水温が下がると、こちらの手がチビタクってたまらん。まあ、水槽の設置場所が人間が頻繁に使用する卓袱台の横であるから、そうは下がらないのだけれど。

 例年より低めの水温で飼育できているからだと思うのだけれど、今年は真冬の産卵騒ぎがない。これにはずいぶん助かっている。いつもならクリスマスあたりから2月にかけて、連続した産卵とその対応に悩まされるのだが、いたって順調。どうやら今年は人並み(?)に春先のイベントとなってくれそうである。ただ、食欲だけはあいかわらずで、「錦鯉」用のエサがどんどん消費されてゆく。私の餌の選び方は、金魚の成長に合わせてギリギリ口に入るくらいの大きめの粒のものに移行してゆくようにしている。人間で考えると消化が悪そうにも思うのだが、このほうが水が汚れないし、金魚の体調を知るのに都合が良いのである。つまり餌の消費量や食べ残しを判断するのに都合が良いのだ。これはたった一匹の小さい金魚、三代目の「トメ」にとっては大変なことだが、食い意地の張った大きい金魚たちは、我先に何粒もの餌を一気に頬張るので、時々はゲップして吐き出してしまう。これをついばんで大きくなっている。まあ、イトミミズや赤虫もたまに与えて食べさせてはいるのだが。現在のメインの餌は「ひかりスモーラー」である。かつて「東王」の食べていたレギュラーサイズの錦鯉のエサ、「ひかり」に到達する日も近い。

 さて、75cm本水槽の話題が続いたので、今回はひさびさに60cm水槽、通称「海軍兵学校」のレポートをしよう。かねてより当欄をご愛読くださっている皆さんは、その経過をご存知だと思うけれど、すったもんだののち、ここ一年ほどは、75cm水槽の金魚たちのオトコ親にあたる「オヤジ」と「オジサン」の二匹の専用住居となっている。

 愚息に縁日で掬われて来て以来、ずっと二匹一緒に生活してきたのだが、ここに至ってもあいかわらず常に追いかけあいを続けている。この水槽、ムスメムスコたちと混泳させていたときには、その「教練」を子供たちにも強要したので「海軍兵学校」と名付けたのであったが、いまや野郎というか親父二匹のみなので、どちらかといえば「スパーリング」か。退役軍人の手慰み、と読んだほうが正解かもしれない。

 この「オヤジ」と「オジサン」、日がな一日中バトルしているので、体はボロボロ。「オヤジ」のほうは以前の水カビの後遺症で目玉も曇ってしまっているうえ、背びれの横に大きなオデキまで出来てしまっているが、いたって元気なのが不思議だ。どちらも体の汚い成魚になってしまったが、わたしはこの二匹がたいへん好きなのである。なんというか、いつまでも子供のような、天真爛漫な中年男というイメージが仲間意識を生んでいるのだろうか? バトルにしても、どちらかが一方的に攻撃するというのであれば、弱いほうが可哀想になってしまうものだが、こいつらは、どちらも決して負けっぱなしではいない。 

 アメリカンフットボールのように、ちゃんとオフェンスとデフェンスがあるのである。一方が疲れたときは、相手に攻撃を続けさせておきながら、自分はやられっぱなしで力を貯めていたりする。そんでもって機を見るや、一気に逆襲に転じるのである。かと思えば、猛烈なラッシュの応酬が続くこともある。ボクシングで言うと、乱打戦である。一撃ごとに攻守が入れ替わる。見ていて飽きないのである、これが。まあ、もともと飼い主が格闘技好き、ということもあるのだけれど。

 さて、どういう技でバトルを行うのかを解説しよう。まずは「追いかけあい」からスタートする。和んでいる一匹の横っ腹を、もう一匹が頭で突いて、スパーリングの開始を促す。相手にしたくないときは無視してやらせているのだが、これがまたしつこい。そして徐々に激突の強さを増してゆくので、無視を決め込んでいたほうも、鬱陶しくなって逃げる。動いたらそこから「ゴング!」である。二匹が水槽中をジェットコースターのように駆け巡る。しばらくは先攻の金魚が追いかける展開なのだが、そのうち逃げていたほうが、「ええ加減にせんかい!」と攻守を逆転させる。もうこうなるとお互いが頭で小突こうとして「デンデンダイコ」の巴模様のようにその場でグルグル回ることになる。これで底砂はすっかり丸く掘られ、底面フィルターが露出してしまう。疲れると二匹がぴったり身を寄せて並び静止する(クリンチ状態ですな、相撲で言えば水入り)が、ここからは停止したままの頭突き合戦が始まる。身を相手の反対側に大きく反らせ、反動をつけて横腹や頭部にぶつけ合う。やられたほうも同じ技で返す。この応酬を飼い主はビール片手に往年の「キムイル大木金太郎 VS ボボ・ブラジル」戦を思いだしながら観戦するのである。いわゆる、「これでどうだ!」「全然効いてねえぜ」「じゃあお返しだ」「なんのなんの」という、あのやりとりである。ああ、飽きないなあ。

 このやりとり、わたしのヘタな文章で書いていても、うまく伝わらないし、百聞は一見にしかず、とも言う。非常に面白くエキサイティングなので、撮影のチャンスがあればぜひ動画でご披露したいと思うのだが、何分激しく動くので光量が足りず、いまだに上手く撮れないのである。金魚だけに「K-1」か。そのうち何とか紹介しますのでどうぞお楽しみに。



←60cm水槽じゃ、バトルするには手狭だぜ。
もっと大きなリングを用意して欲しいもんだね。と、「オジサン」。
オジサンは、どちらかというと「受けて立つ」タイプ。先制攻撃をかけるのは、大概「オヤジ」のほうからだ。
←水カビ病や細菌性の感染症で頭部に白い粉が吹いたようになってしまっている「オヤジ」(奥)。背びれの横には大きなオデキが。
手前の「オジサン」も、尾の部分のウロコはかなり剥がれ落ちてしまっている。
←だいたいオレたちが、日がな「バトル」やって遊んでるのも、メスを入れてくれんからなんだ。この悶々とした日々をスポーツで発散しているというんだ。わかっとるか!飼い主よ!

見よ! このリッパな追い星を!
精力、あまりっぱなしなんでゴンス。
2003/01/24 (Fri)

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