アウトドア焚火酒野宿
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vol.1 焚火の終わり

▲燃えつきた薪が燠に変わる。焚火のいちばん幻想的な場面。天を仰げば星空が見える。
 イントロでは、わたしの焚火スタンスに就いて書いたのだけれど、次がいきなり「焚火の終わり」についての話。さも偏屈、と思われるかもしれないが、どうしてもまず「終わり」に触れないわけには行かない。焚火は元来、特に場所を選ぶ必要もなく、その辺の木っ端と落ち葉を集めて点火し、煮炊きし、また暖をとった後、バケツの水をぶっかけて、終わり、としたものであろう。ところが、いまどき道楽で焚火野宿を行うとなると、まず「終わり」のことから考えないことには始まらないのである。

 わたしの場合、焚火跡を「焚火開始前のその地の状態に復元して終わる」、という面倒なことがキチンと出来て始めて、いちばん清々しい気持ちになれるのある。後始末は、当然といえば当然のマナーなのだが、キャンプ地などの河原に、煤けた石や黒く染まった土くれが目立つ昨今、ちゃんと実行されているとは言えない「当然」なのである。もちろん厳正な意味での「完全復元」は不可能だし、かなり厄介なのであるけれど、かまどの痕跡を残さない焚火をすることをたえず考慮に入れながら、工夫しつつ薪を燃やし煮炊きするのが、また愉しいのだ。なのであえてこれを、その時々の焚火の評価基準としているのである。

 この目論見を成功させようと思うと、帰り間際の手当てだけでは到底不可能だ。まず、かまどの位置を決める折からが肝腎なのである。焚火酒を愉しむだけなら、風向きによる炎の廻りや煙の流れる方向、人の座る位置の快適さ、また料理や薪などの手回りの勝手を考えて場所を決めればよいのだが、そこに痕跡を残さずに始末できるための条件を加えなければならない。腐葉土が積もった広葉樹の林なら、残灰を深く埋めてしまえばよいが、都市近郊の河原などでの焚火では、煤けた土や焦げた石ころを残さないで終わるのは結構タイヘンなのである。
 河原で焚火遊びに饗するのなら、快適さを求めて少しでも水際に寄りたがるのが人情である。なので、かまどの位置も底に水が湧き出ない、水面高ギリギリになるくらいまで流れに近づこうとする。そうしても焚火自体は特に問題なくできるのであるが、焚火跡の復元のことを考えると、これをやってしまうと難しいのだ。完全に埋めてしまったとしても煤や灰が流れに滲みだしてしまうし、石ころだけの河原の場合は、なおのこと煤の痕跡を隠すのは不可能に近い。

 いくらわたしが「偏屈焚火」だからといって、自分の流儀を押し付けて、同行メンバーを不快にさせては申し訳ない。折角気持ちの良い河原に出てきているのに、どうしてそんな水際から離れた陰気な場所にカマドを設営するんだ! などと思わせたくないので、前記の理由は口には出さず、ギリギリの妥協点まで水際に寄る。そうして次は薪の燃やし方で、跡地の復元に考慮した焚火をすることになる。薪を完全燃焼させるためには慎重さを要するのだ。したがって同行人は、わたしの焚火はミミッチく、派手な火力が出ずに物足りないと感じているかもしれない。おまけに勝手に太い薪を投げ込んだりすると、やや「ムッ」としたわたしの視線が飛んできたりするし…。

 焚火跡のことを意識すると、当然、採集する薪の量と使用配分にも注意しなければいけない。薪の全体量を見て、今夜と朝の料理や肴、また深夜の炎のイベント用に、おのおのどれだけ使用すれば、撤収時に残りがゼロになるかを考えて燃やす。その計算を容易にするために、薪は適当な長さに揃えてあらかじめカットし、3〜4段階の太さに分け、かまどの右手に整頓して置く。濡れた流木や、太めのものなどは、完全に灰にするためのタイミングを考えて、初期から火の至近に置いておく。焚火の途中でも、頻繁に先が燃え落ちた枝を逆向きにして焔の中に押し込む作業に気をくばり続けなければならない。

 深夜、酒を酌み交わしながら炎をみつめるのは、焚火最大の愉しみだ。しかし、この火力も盛りの、燠が火床を煌々と敷きつめるようになった時分が、焚火跡復元にとって一番重要なポイントなのである。火床全面がムラなく赤い燠で敷きつめられるように、火掻き用の枝でこまめに慣らす。お好み焼きの形を整えているような按配だ。投入する薪も、燃えさしが燠火の絨毯からはみ出ないように、ちょいちょいと動かせてやる。このころになると、もはやメンバーはおのおの順に寝袋に潜り込んでしまい、わたし一人が酒を片手に火の番をして愉しんでいるのが普通だ。太い薪は、翌朝までに完全に燃えてしまうような位置に動かし、空気の通りも考慮したうえで、微調整配置する。そうこうして手を掛けているうちに、こちらもすっかり酔いがまわってくるので、そのまま後ろに倒れ込んで寝てしまうのである。

▲燠のうえに燃えさしの薪を並べておいてから眠る。(真っ赤な燠火もストロボ撮影するとこんな感じで味気ないこと)
▲翌朝の状態。上写真の薪は燠火の火力できれいに灰になっている。
 朝の陽射しが顔にあたって目覚めると、まず、前夜のかまどを覗いてみる。夜、燠火で一面真っ赤だった矩形が、真っ白の灰に転じている。一片の燃え残りもない状態。この首尾を確認するのが愉しみなのである。夜の派手で豪華な焚火の後を、朝この状態にまでもってきておけば、撤収時の作業が非常に容易になる。残っている木っ端や枝を拾い集め、この白い矩形に丁寧に並べて、フッと息を吹きかけてやれば、即再点火してくれるので、朝の簡単な料理はこの火力でOKだ。コーヒーなどを飲みつつ、焚火の周囲に残った薪の残片を拾って、かまどの中心付近で燃やしてゆき、無事、美しく焚火が終了する。

 計算通りに事が運んでくれると、もはや燃やし残したものはないのであるから、後はかまど跡を慣らして元通りの状態に戻せばよい。白い灰の矩形は、実際はまだ煌々と燃えているのであって、夜なら真っ赤なのだ。灰がたたないように低い位置から水を掛けて消火する。でも水はなるだけ少ない量で消してしまうように配慮する。白い灰も水を含むと、薄汚いヘドロ状になってしまうからだ。そうしてその上から土を被せて慣らす。かまどに使用した石はどうしても煤けてしまうので、できれば完全に埋めてしまいたい。ラクに、美しく撤収作業をするには、大きめのスコップは必需品である。

 わたしは、焚火の焔をみつめながら酒を飲むのが大好きだが、かまどや野営地を片付けたあとを、一息つきながら眺めるのも好きである。人が遊んだ痕跡のない林や河原の床が、そこに復元されている。この「焚火の終わり」かたが首尾よく成功してこそ、焚火を遊んだ充実感が沸きあがってくるのだ。

※焚火場所に持ち込んだ食品などから出る包装ゴミや残飯などの処理については、また回をあらためて書くことにします。(cave)

03.07.15

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