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文庫本読書倶楽部
58
下町酒場巡礼

下町酒場巡礼 58 下町酒場巡礼

大川渉・平岡海人・宮前栄 著
ちくま文庫
酒場ルポ・ガイド系

投稿人:cave ☆☆☆ 01.10.10
コメント:呑んべえには・・・たまりません。


 ああ〜!飲みに行きたい! この本、十年前に出ていればなあ。わたしは東京に暮らしていたというのに。
 と、いきなり嘆きから始まってしまったが、本書はイケる酒場の探索報告である。この手の本は純粋なタウン情報やガイドブック以外にもそこそこ見つけることができるが、どういう味付けで企画構成されているかによって、その楽しみ方が大きく変わる。
 有名な作家や随筆家のものになると、著者自身の好みが大きく店の良し悪しを左右する。その酒場での人間の生き様を描くことに重点が置かれることが多いし、その作家が先生だからこそもてなされる場合もでてき、その酒場で、読者誰もが同じような良さを味わえるかというと、かなりムリが出てくる。だからこちらは作品として楽しむべき書物ということになる。
 本書と同じちくま文庫、なぎら健壱氏の「東京酒場漂流記」もナカナカの名著だけれど、こちらは時が流れすぎていて、実際に訪れるには少し情報が古くなってしまった。
 当欄No.50、コダーマン氏にご投稿戴いた「ニッポン居酒屋放浪記」も同類の書だが、こちらは「旅」に絡めてあるので、実際に足を運ぼうとするなら「日本百名山踏破」的な覚悟を必要とする。ま、こちらも読んで愉しむ本であろう。
 ところが本書は、場所を東京下町に絞り、三人のライターが鼻と自転車で嗅ぎ分けた良店を紹介してゆく形になっているので、ガイドブックとしても十分使える。また、すでにその店で飲んだことがある読者も多数いることと思われる。目次を見て、自分が知っている店が紹介されていることに気付くと、その稿に進むのが待ちどおしくなったりして、これも愉しい。単行本から文庫化までに3年が経過しているが、情報としてはそう古いとはいえないだろう。もっともこの3年の景気の推移を考えると、下町の酒場にはかなり過酷だったかもしれないが。
 三人の著者は、さほど一般に名が通っているかたがたではないので、呑んベえ読者も同じ視点で酒場の評価ができる。また、文章も饒舌になることを避け、酒や肴と店の雰囲気を簡潔に的確に紹介してあるので非常に有用である。
 ところどころに挿入されるコラムも、的を突いた話題で、ひと息ついた気分になれるし、写真もその酒場の感じがひとめで判断できて、ありがたい。単行本では続編も出ているようだし、その文庫化も愉しみだ。
 しかし、ここに掲載されていない東京の名酒場は、まだまだあります。そして、ありました。下町に限らずとも東京は奥が深い。こういう書き方であれば掲載基準の線引きをぐっと下に降ろして、淡々と酒場の紹介を延々続けるのもアリかなと思える。町内から一軒は必ず出ている、なんていうのもいいんじゃないでしょうか。庶民文化の記録としても。
 いや〜、しかしそそります。焼酎、ホッピー、泡盛。そしてローカル炭酸水。串カツ、モツ煮込み、ホルモン・・・ホルモンは時節柄、危ないかもしれないが・・・ということは酒場の大きな危機が今現在訪れているということか!
 下町酒場愛好家の呑んベえの皆さん!「狂牛病」など怖れず、どんどんホルモンを摘んで酒場の後方支援をお願いします。なあに、脳がスポンジになる前にテロに遭遇するかもしれないご時世です。死の灰をかぶる羽目になるかも知れません。美味いものはどんどん喰って力を腹に貯えましょう。実弾さえ用意できれば、そのうちあたしも駆けつけますから。あ、今、わたし、馴染みのある上十条の「斎藤酒場」で当サイト「偏屈酒場」のオフ会を開催することを思いついてしまいました。が、しかし、実行はいつになることやら。なにせ実弾が・・・。
 ああ、読後感想が「呑みたくてたまりません」になってしまった。文章も無茶苦茶だ。ひらにお許しを。


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