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文庫本読書倶楽部
50
ニッポン居酒屋放浪記

ニッポン居酒屋放浪記・立志編ニッポン居酒屋放浪記/疾風編 50 ニッポン居酒屋放浪記・立志編/疾風編

太田和彦 著
新潮文庫
紀行エッセイ・酒場ルポ

投稿人:コダーマン ― 01.08.06
コメント:---


 少し悔しかったが、楽しかった。酒の本としては、秀逸と言っていい、読者が酒を飲みたくなるという意味で、抜群である。
 著者がそれなりの理由をつけて地方都市へ行く。本来理由などなく、単に酒を飲みたいだけなのだが、何となくもっともらしい理屈をつけて同行者とその地に出かけて、酒を飲むのである。腰を落ち着けるのは、いい居酒屋。よくまぁ、こうして本を書くほどいい居酒屋を当て続けたなと思っていたが、読み進むと現場ではかなり外していることもわかった。ろくな店じゃないことがわかって、ほうほうの体で逃げ出すまでの顛末も面白い。
 悔しかった理由を書いておく。
 私は、イラストレーター・作家の本山賢司さんと、この著者太田の居酒屋放浪記とそっくりの仕事を続けていた。その掲載誌が続けば、単行本としてまとめる予定でいたのだが、バブルがはじけたあとその雑誌が廃刊になってしまった。まだ本にするほどは原稿ができあがっていなかったのだ。書き手描き手にとって、媒体がなくなるのは大打撃。仕事とともに収入も減って大変だった。
 さて、太田氏と同行者は、目的の街に昼頃に到着する。そこで昼食。この時に食事する店で何となく地元の情報を仕入れる。放浪記の初期には、自分たちの足で居酒屋を探して歩き回っているが、徐々に情報が集まるようになったせいだろうが、午後は夜の酒に備えて昼寝をするようになっている。これも手ではある。
 そして夕方5時頃宿を出て飲みに行く。
 私たちは、その昼寝の時間を市内の古い界隈を徹底して歩くのに費やしていた。また地元の本屋に入り、タウン誌でもしかしたら見つかるかも知れないいい居酒屋の情報も探した。
 今度まねしようと思ったことがひとつあった。入った居酒屋が当たりかどうかわかるまで、ビールを一杯飲んで店の気配を探る。そして、どうも「外れ」のようだと判断した場合は、どちらでもいいから、最近の政治はなっていない、という話題を持ち出すことにしているそうだ。話題が自然で、店の者に気取られることがない。そうして、政治の悪口を言って、ビールを飲みきったところで店を出るのである。暖簾をくぐってすぐ、これは駄目だとわかったら、勇気を持って店を出るということもしている。様子を探るために最初はビールを一本頼むというのは僕らもやっていた方法である。飲み屋で考えられる手としては、これしかない、というところで飲み介が同じように思いつくらしい。
 それにしても、すぐれた居酒屋というのも「絶滅の危機に瀕している」と思う。
 著者が入るのは、必ずしも居酒屋だけではなく、地元で知られるバーや美人がいると噂の飲み屋などにも結局は顔を出すが、基本は居酒屋。それも一晩に数軒覗いている。これが取材の辛いところだろう。
 居酒屋。酒飲みの気持ちがわかっている親爺、親爺が選んだ酒、その酒にこれがうまいという肴、飲ませたいやり方に個性がある。そして長年酒飲みに愛された店の佇まい。これが渾然一体となって、居酒屋が居酒屋になる。しかし、どんなに前半の条件を揃えても、「長年愛されてきた」というところが欠けると居酒屋は一人前ではない。
 各地の地酒を味わい、その日その時期の肴を楽しむ。ここにこの放浪記の良さがある。その地の酒を飲むのである。そのために出かけていかなければいけない。
 ああ、こういう旅がしたい。こういう旅を仕事にしたい。とは言っても、本当に仕事になってしまうと、案外面白くなくなってしまうこともある。
 この著者、夜店から店に移る途中に「ユンケル」を飲んだりするところが気に入らない。まぁ、そうまでして酒を飲むというのは偉いけれど、栄養剤はいけない。


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