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文庫本読書倶楽部
21
ビッグ・バッド・シティ

ビッグ・バッド・シティ 21 ビッグ・バッド・シティ 87分署シリーズ

エド・マクベイン 著
早川書房・ポケミス
海外ミステリ

投稿人:コダーマン ― 01.02.11
コメント:---


 これがこのシリーズの49作目。1作目は1956年だからね。1年1作以上のペース、ちょっと調べてみると、年に3作も書いている年があったり休んでしまった年があったりである。これほど時間がたっている割に、登場する刑事たちが年をとらない。そのことが不思議だったのだが、この数冊で急に年が進んだ。事件そのものは、時代を反映して、麻薬や、反戦運動などなど、アメリカはこういう犯罪に手を焼いているんだろうなと思わせる作品が多かった。時には、87分署の刑事が殺され、別の分署に移っていくのがいたりもした。誘拐、強盗、人質事件。同じ犯罪人が捕まりそうになると街を逃れて、しばらくするとまた戻って犯罪を繰り返して、刑事たちを翻弄する作品もあった。これまでの三分の二ぐらいは文庫になっているので、順番に読むと作中では「アイソラ」という名前になっているニューヨークの雰囲気がよくわかる。それと、警察の分署という男所帯の物語の味わいが濃くて、悪くない。
 また、40冊目の頃に、エド・マクベインもそろそろ年だよねぇ、と思うぐらいに不調だったが、この前の「ノクターン」、これ、そしてその次の「ラスト・ダンス」はすごく面白い。
 ビッグ・バッド・シティでジョギング途中の女性が、公園で殺されている。このジョギング途中というのが案外やっかいで、身分証明書を持っていなし、服装から職業の見当をつけるということも難しく、また、一人で走っているので同じ時間に走っていた人に聞き回っても全く手がかりがつかめないということになってしまう。
 この殺人事件と、犯行現場にクッキーをおいていく強盗事件の捜査が重なって、分署の刑事たちは例によっておおわらわ。しかも、主人公といっていい刑事の父親を殺した犯人が保釈されていて、こいつが主人公自身をも殺そうとねらい始める伏線がある。これは読者だけが知っているという心配のタネになる。
 父親を殺した犯人をしゃばに出したのが、「妹の旦那」である弁護士と来ては、主人公は実に不機嫌である。
 こうした公私にわたる悩みを内在したまま日々が過ぎていき、事件が少しずつ結末に近づいていく。すっきりした解決にたどり着く事件と、そうだよなそうそうきれいに事件は片づかないもんだよな、と思わせつつ終わる事件といろいろ。
 公園で殺されていた女性は、修道女であることがようやくわかる。病院で末期の患者のために手伝い、病院側からも患者側からもとても感謝され、慕われてきた女性なのだった。表面的には、殺される理由がない。しかし、明らかに殺されていたのだ。いわゆる通りすがりの犯罪ではないらしいこともわかって、彼女の過去をしらべあげていくと、ロック歌手だったことがわかる。
 とまぁ、これ以上は書かないのがミステリの約束。群衆ミステリのいいところがでた味わい深い警察小説。このシリーズ、1冊目から読む元気がない人は、47の「ロマンス」あたりから読むと、最近の事件なのでわかりやすく、職人作家の腕のいいところがわかる。ただ、この数冊はまだ文庫になっていないので、ちと高い。


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