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文庫本読書倶楽部
20
地図の遊び方

地図の遊び方 20 地図の遊び方

今尾恵介 著
新潮OH!文庫
地図・雑学

投稿人:cave ― 00.12.18
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 地図を眺めるのは愉しい。本書は地図マニアの著者が多数の図版を引用、比較して、その面白さを啓蒙してくれる良書である。国土地理院発行のオフィシャル地形図にとどまらず、道路地図や海外の地形図にまで言及し考察されているのは、さすが。特に海外の地形図に関しては私も全く意識したことが無かったので興味深かった。

 私も国土地理院発行の5万分の1地形図とは付き合いが永い。幼稚園児の頃、祖父が隠居後の手慰みに山林の不動産売買をやっていたので、自宅に赤鉛筆のメモ書きが入った5万分の1地形図がたくさんあった。これを引っ張り出しては眺めていた。当時はたしか単色刷りだったように思う。印象に残っているのが海や湖の部分に深度の等高(?)線が入っていたことだ。スミ線で入っていて、陸上ほど詳細ではなく、スペースの空きを線で埋めているだけのような図だったので、子供の私の目にはクモの巣のようで、不気味に感じたことを覚えている。私はマニアじゃないから検証はしていないが、子供心にこの海の等高線はテキトーなもので、正確な深度じゃないなと思ったものだが、実際のところどうだったのだろう。

 本書の著者は、さすがマニア。「海ばかりの地形図」を収集する!というスゴいことをやっておられる。いまは多色刷りなので地図一面が青々としていて、ほんの隅っこに申し訳ばかりの陸地がある地図。経緯度で区切っているから必然こういう部分ができてしまうのだが、シロートなら勿体ないから買わないところに芸術的価値を観だしてしまうのは凄い。たしかに壁に貼ってぼんやり眺めたりすれば、そこいらの三文版画よりは優れたアートとして成立するだろう。先に触れた、昔のクモの巣状の線入りの単色刷りのものなら、吸い込まれそうに見えてなおさら異様なアートであったかもしれない。

 小学生になって、私がひそかな楽しみにしていた地図遊びがある。当時「ラッションペン」という多色サインペンが発売された。この12色セットを手に入れた私は、机に向かって勉強をしているフリをしながら遊べる方法のひとつとして、地図を書いていた。ノートにまず、グレイで陸地の輪郭を描く。その輪郭をもとに不自然な地形にならぬよう留意しながら、等高線を描いてゆく。でき上がった地形に水色で川や湖沼を描く。赤で都市部を描く。そしてそれを鉄道で結び、トンネルを通し、新幹線を走らせ…最後の方は、線の重複でぐちゃぐちゃになってしまうのだが、なんのことはない、今あるシミュレーションゲームソフト「シムシティ」や「A列車で行こう!」をアナログでやっていたのだ。面白いことに、何度もやって地形のバリエーションが尽きてくると、こんどは戦争や天変地異のイベントに進んでいったことだ。これは上記のソフトでも同じ進化をしたわけで、人気のあるゲームの普遍性のヒントなんてものはこんな単純なところにあるのだろう。戦争や天変地異を現出させるようになると、「ラッションペン」の先端はたちどころに丸く潰れ、使い物にならなくなったのは言うまでもない。

 著者は地図をみながら、行政の堅いアタマやお役所仕事にもするどい批判の目を向けている。東京での旧地名の抹消はもとより、なるほど!と思うような細かなトコロにも言及している。一例に、京都市の地下鉄や私鉄の駅名の付け方について、京阪電車と地下鉄烏丸線の「四条」は京都人ならともかく、他の国や地方の人にとっては1km以上離れているとは考えないだろう、と指摘している。おまけに「京都市がもうひとつ南北に走る地下鉄を作ったら駅名はどうするんだ」と心配までしてくれているが、これは杞憂であろう。経済地盤沈下の京都市に、そんな余裕はありませんワ。

 実は、私は最近でも時々、5万分の1地形図や2万5千分の1地形図を購入している。何に使うのかといえば、趣味の焚火野宿の好適地をさがすためだ。師匠の「野宿画伯」本山賢司氏などは、磨き抜かれた勘で、いまや10万分の1のほうが使いやすいなんておっしゃっているが、私はまだまだ。南斜面で日当たりがよく、水場もあって、広葉樹の雑木林で、人も少なく、クルマが至近まで入れるような場所を地形図上で推測して、ピタリと当てることができるようになるのはいつのことやら。

 ともあれ、地図は愉しい。通勤の車中でも、読書に飽きたときなどはポケット都市地図を眺めて過ごす。ただあの区分地図は町名ごとにドギツイ地色わけがされているのが残念。あと、うっすらとでもいいから、地形の解る記号をいれてほしいなあ。


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