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文庫本読書倶楽部
22
ラスト・ダンス

ラスト・ダンス 22 ラスト・ダンス 87分署シリーズ

エド・マクベイン 著
早川書房・ポケミス
海外ミステリ

投稿人:コダーマン ― 01.02.11
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 これがシリーズ50冊目。特別な仕掛けはなかったが、面白かった。
 かつてイギリスで公演された芝居の台本がある。それが舞台にかけられたのは古い時代の話で、その芝居はヒットしなかったという。しかし、その内容に目を付けて、今風にアレンジできるところは変えて、アメリカで公演すれば十分ヒットが見込めると判断したグループがいる。プロデューサーだの、舞台監督だの、役者だの、ひとつの芝居に必要な人々が動き始める。ヒットさせて、大きな儲けを手に入れようともくろむわけだ。アメリカではそれが当たり前で、この芝居が当たれば大儲けできる、と投資の話を持ちかけてそれに乗るということになる。
 すでに周囲の人が仕事を始めているにもかかわらず、ひとつだけ問題が残っていた。台本の著作権を持っている老人が、再演はさせないと言い張る。させたくないのだ。この老人の記憶の中にある女性が、昔その芝居に出て、これは自分の思い出の中に封じ込めておきたい作品なので、変な形で再演などさせないでくださいと言い置いて亡くなっているのである(細部が少し違っているかも知れないが、その老人にしては再演は許せないという事情なのだ)。出た女性か、台本を書いた女性かはっきりしなくなってしまった。
 ということで、公演をもくろんでいる連中がこの老人を説得するとか、大金を積んで買い取るという方法は全て失敗。何とかなると思って公演に向けて稽古を始めた出演者たちも困ってしまう。
 ここに、殺意が発生する。
 老人は「自殺したように見える」方法で、殺されていた。著作権を受け継ぐはずの娘もいる。何度も説得に訪れたプロデューサーもいる。老人が殺されて、娘に台本の権利が移ると都合のいい人が沢山いる。87分署の担当刑事たちが捜査に訪れるたびに、業界用語を使う演劇世界の人間たちが嫌味十分な応対をしてくれる。この事件は、刑事たちのコツコツ積み上げていく捜査によって解決を見る。
 一方では、主人公の刑事を狙っていた「主人公の父親殺しの男」の問題の解決もこの事件の最中にある。そして、これまでほとんど登場することのなかった、別の分署の刑事がこの事件では大きな役を果たす。こうして新しい登場人物を作り出しては物語の展開を膨らまして行くところがエド・マクベインの腕のいいところだろう。


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