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文庫本読書倶楽部
117
忍び寄る牙 ジェッシイ・ストーン・シリーズ

忍び寄る牙 117 忍び寄る牙 ジェッシイ・ストーン・シリーズ

ロバート.B.パーカー 著
ハヤカワ・ミステリ文庫
海外ミステリ

投稿人:コダーマン ☆☆☆ 04.10.26
コメント:元アル中の主人公の、苦い心の内が、いい


 No.53の『暗夜を渉る』の続編。

 これは、シリーズの順番で読まないといけない。順序を逆に読むと、話の展開だけでなく、人間関係の物語が納得いかなくなってしまう。
 パーカーといえば、長く人気のスペンサー・シリーズを読んでいる人も多いだろう。私も初めの方は出る度に読んでいたが、ハードカバーが月間の読書予算を超えるようになってしまって、手が出せなくなってしまった。
 
 さて。
 『忍び寄る牙』というタイトルも、本を読めば悪くないとは思うが、原題の「Trouble in Paradise」というタイトルも洒落ている。パラダイスは、町の名前でもあるし。
 前に紹介した『暗夜を渉る』という小説に続く作品。パーカーは、相変わらず話作りがうまいなぁ、としみじみ思う。元アルコール依存症の警察署長ジェッシイ・ストーンのシリーズ第2弾だ。
 ストーンは、この新しく住み始めた町で親しくなった女性とつき合い、また、一旦離婚した妻がロスアンジェルスからこの地まで追いかけて来ていて、彼女とも「半分」よりを戻した感じになっている。
 この二人との関係は、紹介では書ききれないぐらい複雑で、深い味を醸しだしている。そこが一つの読みどころでもある。
 この辺の大人の男女に話が読んでいて快い。「現代のアメリカにおける、成熟した男女の性的関係も含めた、男と女のありようをミステリに巧く採り入れている」などと、評論家だったら書くかも知れない。ストーン自身は、なんとかアルコール依存症から立ち直ろうとしている。その心の戦いと並行する男女関係の描き方がさらりとしていながら、いい。
 優れている一方で離婚や未婚の女たちの精神的な闇、別れて傷ついてしまう男たちのアルコール依存症などなどは、まったく最近のアメリカ小説の典型そのままではある。
 
 さて。パラダイスの町の、金持ちがまとまって住んでいる地域を狙って大規模な強奪計画を立てている一団がいる。
 パラダイスの町と橋で繋がった小さな島に、リタイヤした金持ちたちが住んで贅沢な暮らしをしている。その橋を落として、島に戻してしまえば警察が手を出すのが非常に難しくなる。その間に金目のものをまとめて奪って、海側に逃げてしまおうという強盗作戦を考え出す男がいる。
 読者はこれを読むので、知っている。地元の警察は知らない。
 よくあるスタイルだが、刑務所で知り合った仲間が、出所してからその道のプロを集めて一仕事し、分け前を受け取ったらあとはバラバラ、というスタイル。
 計画を立てるのは猛烈に「頭が、キレる」男。最初の相棒は、冷徹な殺しの技術を持ち仕事全体の推進役、そして、爆発物の扱いに長けた男、その他。こいつらが最終的に仲間割れするか、一部強奪が成功して何人かが逃げるのか、あるいは一網打尽か。それとも、州警察などを呼んでの銃撃戦になって殺されてしまうか、などなど読者として想像しながら読み進む。
 ミステリの読者が多くの読書経験を重ね、こんな終末を迎えるのではないかと想像したとして、その通りになってしまったからつまらないということはない。そこに到る展開が作家によって違い、様々に違った人間関係が出てくる、それが面白いのである。それと海外の作家の場合、そうそう似た結末に出会うことはない。
 犯人グループは、非常に用意周到であることはいうまでもないので、町の警察では初めは全然気づかない。
 町に現れた悪党の主役の、あまりにも「キレる」感じが、何か変だと感じさせることから始まって少し主人公の気持ちに引っかかる。変な一団だと感じる人も確かにいる。とはいうものの、金持ちのふりが堂に入っているので、まったく不審を抱かない人も多い。
 しかし、乗っている車のナンバーや、会話を交わしたときに口にした前に住んでいた所番地、その他一緒にいる女の動向が微かに不自然であることなどから、ストーンは全体として何か怪しいと感じて警察網を通じて調べてみる。でも、軽い調査では何も出てこない。
 通り一遍の調査では何も出てこないのだが、まったく何も出てこないことが「おかしい」と、調べをやめない。

 その間に、強盗団の計画は進み、橋を爆破で落としてしまったあと、孤立した島でどういう行動をとり、どれぐらいのものを奪って、どう分けて、どう逃げるか。
 このあたりで、分け前についての不満が出てくるお馴染みの「仲間割れ」の予兆、あるいは、仕事を終えたときに殺されるのではないか「それなら逆に殺してしまうしかない」という危機をはらんだ気分が出てくる。
 
 警察の調べで、やっと「キレる」男の乗っている車が本来は、その男のものではないことがわかり、名前は変えているが顔写真のファクスのやりとりで、非情な犯罪人で要注意人物だということも教えられる。仲間の何人かも、犯罪歴があって、特殊な技能を身につけた男たちだとわかってくる。そして、何を計画しているのか読みきれないでいるうちに、計画が実行に移されてしまう。

 そして、島になってしまった区域の住民全体が人質になるという強盗団と、田舎町の警察の対決になるわけだ。
 どうしても読みたくなるでしょ? いやぁ、面白いんだ。映画に向いている気がするし、事実読んでいて、風景が浮かんでくる。紹介したい「いい部分」が沢山あるのだが、いつものことでミステリには紹介の中で書いてはいけないことが多く、残念。
 早く次の作品を読みたい連作小説だ、といえば、気分は伝わるかな。


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