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文庫本読書倶楽部
53
暗夜を渉る

暗夜を渉る 53 暗夜を渉る

ロバート・B・パーカー 著
ハヤカワ文庫
海外ミステリ

投稿人:コダーマン ― 01.08.06
コメント:---


 もし今年の終わりに「2001・ミステリ・ベスト3」をあげて下さいと言われたら、よほどのことがない限り、これを入れる。その程度に、面白い。
 アメリカの地方都市の話としては時折あるが、街を牛耳っている金持ちの登場。街の名前はパラダイス。金持ち自身は行政委員長で、直接街の政治には参画してはいないが、実際は警察署長の首根っこを押さえているので、自分では「我が町」と思って横柄、横暴に振る舞っている。かなう人間がいないというのが本当のところ。
 さて、これまでこの男の言いなりになってきた警察署長は、時に犯罪者を見逃し、金持ちに目障りな人間を犯罪者に仕立てたり、邪魔者を消してしまった犯人を知っていても何もいわずに無意味な捜査を形ばかり続けてみたり…という自分に嫌気がさして、署長を辞めることにする。辞めても、その金持ちの呪縛がつきまとうことを思い知らさせることにはなるのだが。
 そうすると、金持ちには、自分の言いなりになる次の警察署長が必要になる。この面接をシカゴのホテルで行う。
 ここに面接に出かけたのが主人公。
 元ロス市警の腕利きだったが、酒におぼれ、妻に捨てられ、すっかりアルコール依存症になってしまった男。
 面接に出かけた時も酔っていた。
 そこで、優秀な警察官を選ばず、「こんなにだらしのない奴なら、俺達が思い通りにいうことを聞かせることができる」という理由で選ばれて、主人公がパラダイスの警察署長になる。
 こうして新シリーズが始まる。
 どうせあの金持ちが選んだ署長だから、ろくなもんじゃないに決まっていると誰もが思い、最初はその通りなのだが、主人公が酒を抜く努力をして、もう一度真人間に戻って仕事をしようという「男の誇り」を心に秘めて仕事をし始める。
 街中で起こる小さな事件にきちんと対応し、殺人事件や傷害、さらに持ち込まれる苦情を真剣に聞き、処理することで、あいつはもしかしたらいい奴かも知れないと思われるようになる。警察の部下の中には、直接金持ちに繋がっている者もいるので彼の行動は金持ちの耳に入ってはいるが、しばらくは様子を見ている。
 傷害事件、殺人事件、その他ひどい目に遭っている人を調べてみると、事件の裏の裏に金持ちがいることをすぐに見出す。見出したからといって、すぐに金持ちを法的に葬るというわけにはいかない、しかし正義はなされなければいけないだろう。それが今回の物語である。
 自分が赴任してから起こった殺人事件の被害者の背景を丹念に調べていくと、やはり「私を雇った」金持ちが怪しいということに行き着いてしまう。その事件の周辺の人間関係を調べ、過去の事件を洗い直していくことで証拠を集め、金持ちの首を少しずつ絞めていく。この金持ちが集めた「私兵」といっていい集団と主人公との対決は映画を見るような雰囲気で、読書の楽しみが満喫できた。
 街のボスのいうことを聞く警察官。少数の正義派。酒が飲みたくなって苦しい自分自身に対する怒り。汚い奴らをすぐには罪にとえない歯がゆさ。別れた妻への気持ち。そしてパラダイスで親しくなる女性。
 ミステリの楽しみのための必要な「話の」部品は全て揃っている。揃っているだけではなく、はまるところにしっかりはまって、完全に機能している。楽しく、わくわくし、面白かった。


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