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														|  |   |  | 114  ブルー・アワー(上・下) 
 T.ジェファーソン パーカー 著
 講談社文庫
 海外警察ミステリ
 
 投稿人:コダーマン ☆☆☆ 04.10.19
 コメント:巧いミステリというのはこういう本。
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								| これが、いいんだ。なんともいい。40歳を越えた人が読むと、ほろっとくる。
 
 日本人が書いて日本が舞台だったら「恥ずかしくて」読めないだろう警察小説。
 
 主人公は「一匹狼」の女性刑事と、老警部補。
 この設定を日本に移しただけで大嘘になる。と、私は思う。
 しかし、あちらのフィクションでは、泣きが入るぐらい面白いのである。
 女性刑事はなにしろ上昇志向が強烈で、確かに頭も働き優秀ではあるが協調性はない。自分の方が優れていると思っているので、男の刑事と組まされるのは嫌い、男の刑事にしてみれば誰もこの主人公とは組みたくない。ほんの少し控えめにすれば充分魅力的な女性ではないか、と読者に思わせる個性に描かれている。そこが巧い。
 こういう女性刑事ではあっても、警察組織ではそのままというわけにはいかない。
 相棒に選ばれたのは、肺ガンの手術を経て現場復帰を乞われた老警部補。十分すぎるほどの経験を持ち、人間性も豊かで、人生をそれなりに楽しんできた人である。多くの人に信頼されている人だ。「嫌な役目を押しつけられた」という風ではない。
 気分的にいつもカリカリして、私が事件を解決するのだ! 私に何か指示しないで! 私がリーダーよ! という女刑事。コンビを組まされた方は「はいはい、私は邪魔をしようとは思ってはいないさ」と心密かに思いつつ、事件解決をできるだけ手伝って役立ってやろうと密かに思う。
 
 この二人が、吐き気を催すような猟奇的連続殺人事件の解決に乗り出す。女刑事の方針に従って動き回りながらも、長い経験から来る「勘」と、アリバイを言い立てる男が発する何か不自然な感じから独自の捜査も始める老警部補。
 昔のように活動的に動き回ることができない老いや病の後遺症も、これが人生というものだろうと味わいつつ捜査していく。一緒に仕事をしてみれば女刑事が優秀であることはすぐにわかる。ベテランは、扱いがうまいので彼女を無意味に怒らすことはない。そこがなかなか気持ちのいい展開。
 
 この老警部補は、地元ではよく知られたサーファー(こういう設定が日本では難しい)で、休みの日には今でもボードを持って海に出ることがある。そういうシーンも、すごく心に響いてくる。自分の人生を満喫しながら公僕としての務めを果たし、もう少しで現場を離れることができると穏やかな心境に近づきつつある。久しぶりに海に出てみると、肺ガンの手術が呼吸に大きな影響を及ぼしていることに気づかされ、「もう若くない」を嫌でも自覚することになる。
 片や、状況証拠から考えて「犯人はあいつだ」と決め込んでしまいがちな女刑事。その考え方がわからないことはないが、そいつは犯人ではないと感じている老警部補。
 二人の意見が一致しないでいるうち殺人は続く。疑いを持った相手を見張っている間に事件が起こり、それまでと同じ手口の犯行だとされたために目を付けた人間が犯人ではなかったことになってしまう。それでもなお、何か変な感じがして老警部補は、見張った相手についての探りを入れ続ける。
 そして…。
 ミステリは解決編を紹介するわけにいかないので惜しいが、この上下巻のミステリは、表紙がよくない割に中身はとてもいい。年は離れていても、男女なのでそこに湧いてくるのは「友情」ではない、愛情。それが少しずつ出てくるとともに事件が解決に向かい、ハッピーエンドが待っていると思う読者を十分に裏切ってくれる最終風景。
 裏切られてなお、いい印象が残る。ちょっとステキな現代小説を読んだ感じ。
 日本を舞台にしたら恥ずかしいというのは、切れる女性刑事、老警部補といった関係が「人情噺」になってしまうだろうし、文章の中での真実味が出てこないと思うから。女刑事というのがほぼ「ひどい描かれ方」になってしまう。また、ベテラン警部の人間像もまぁ、臭いオジサン風でとても読みたいと思わない。
 その点、なんでも海外のものがいいというわけではないが、この小説では、長い人生経験、警察での経験、病を背負った老いの境地、こういうものをサラリと描くあたりがなんともいい。まあ女刑事も、美人ではないが、ちょっといい感じ。先輩であるはずの人が自分のいうことを聞いて、こうすればいいわけだねと捜査をしてくれる。そういう老警部補の自信と確固たる態度にほだされてていく。その辺りも読ませる読ませる。
 軽く、重く、さらりとしていてしっとりもしている。実に、いい感じの小説。
 
 第2作「レッド・ライト」のレビューはこちら
 
 
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