ヤドカリと磯の生き物の飼育

34話
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アサリに混じりてアカニシ来たる
〜レイシガイのハンニバル博士逝く〜



↑2004年の7月21日、南紀白浜の磯から連れ帰ってきたクリフレイシガイのハンニバル博士が、 とうとうただの貝殻に。
このデスクボーイでほぼ4年間生き続けたわけだが、最近は不思議なことに貝殻ごとどんどん小さくなってきていた。
チビが亡骸を物色にやってきた。「長年同居したよしみだ。チビ、博士の貝殻に入ってやれよ」

(08.06.04撮)



 毎年のことなんですが、夏場になるとめっきり憂鬱度がアップする当家デスクボーイ海ヤド水槽。当欄を以前から読み続けていただいている奇特な読者のみなさんは「わかってるわかってる、もう皆まで言うな」とおっしゃっていただけることと存じます。なんと情け深いお言葉。そうなんです。夏に生体を健康にキープし続けるためには相当の問題点を抱えていながら、去年となんら進歩してない水槽設備なのでございます。5月の中旬にしてはや、放っておくと水温は30℃をオーバー。なもんでちょこちょこと風を送ったり、真水を足したりしながら、ぎりぎり29.9℃以下を維持しておるようなわけです。あいもかわらず。

 決して飼育に対するテンションが下がっているわけではございません。もう2年あまり追加の採集にも行かず、レギュラーメンバーの数匹とに限った付き合いを延々と続けておりますけれど、これもまたなかなか乙なものであると言えます。とにかく各個体それぞれのタレントの「勝手知ったる生活スタイル&きょうの健康状態」というような、もはや芸能プロのマネージャーみたいなことになってしまってますので、エサの時間に水槽をじろりと一瞥しただけで、「あ、このヒト異常なし」、「あ、こっちのヒトちょっと空腹気味」、「こっちのヒトそろそろ水換えキボ〜ン」てな様子がじんわり伝わってくるんですよ。ま、さすがに寿命やら、悪環境での疲弊やらがあり、徐々に個体数は減っては来ましたが。

 さてそんなのんびりした、言い換えればいたって退屈な小水槽ですが、長い時間の間には意図せぬところで思わぬイベントが起きるから面白いもんす。今回の場合は、新入り巻貝の闖入です。家人がみそ汁の実にと購入してきたスーパーマーケットのアサリパック。いわゆる発砲スチロールの浅いトレイをラップでくるんであるヤツですが、そのアサリの中にグレイの巻貝が一つ混ざっておりました。ま、アサリを食おうと思ってアサリの花園に侵入したら、一緒に梱包されてしまったというお間抜けなヤツですが、それでも鍋で煮立てられる前に、あたしの目に留まったのは悪運強し!と言わねばなりません。今回はそういうデビューをしました新顔「アカニシ」君と、来訪4年目にして残念ながら身罷ってしまいました、クリフレイシガイのハンニバル博士のお話がメインです。まあ、ホンヤドのチビも息災ではありますが。コトの詳細は各写真キャプションにてお愉しみください。


突然の闖入者、アカニシ
↑5月12日。砂だし中のみそ汁用アサリを見かけたので、
しめしめとイボニシ&レイシの餌用に一個拝借しようと物色してたら、
パックの中になんか黒っぽい巻貝が混ざっていた。こいつである。
(08.05.12撮)

アカニシ(アッキガイ科)みたいな感じですな

←貝長はまだ3cmくらいだが、ぱっと見イボニシみたいに見えたので、「おいおいスーパーよ、アサリに肉食巻貝混ぜて売ったら拙いんでないかい?」と思ったが、これも何かの縁なので、とりあえず海ヤド水槽にお招きした。砂に潜るのが得意げな奴だ。アンダーテイカーの鼻先をビビりもせずにチャラチャラする新入り君。

よく見ると、貝殻の尻部が角の付いた段々に巻いていて、イボニシやレイシガイとはちと違う様子。殻口内側には細かな筋が入っていて黒っぽい…てなことでひとまず暫定「アカニシ」つうことで話を進めてまいりますです。これで当家デスクボーイにレイシガイ、イボニシ、アカニシの強面チンピラ三人組が完成。賑やかになってよかったなあ…と言ってたら数日後にハンニバルが没ったんですが。
(08.05.12)

また台所にアサリを発見したので一個失敬。なんか水管を膨らませて、金満社長風のおもむきだな。肉食巻貝チンピラ三人組のうち、どいつがカツアゲ一番乗りをするのか楽しみだ。

結局一番乗りはアカニシだった。やっぱりまだこの水槽の生活サイクルに慣れていないせいか、餌に対して必死モードが抜けていないようだ。しかしだいたいが、アサリパックに混入っていう境遇自体、ハーレムみたいなもんやん。酒池肉林の乱痴気騒ぎ、美女の無人島に男ひとり…みたいな。
急にそんなにあせってどうするねん?
(08.05.12)

←数日後、またアサリみそ汁デーが。今度も新入りのアカニシ君が一番に来て取り付く。速さはピカ一だなあ。チビのくせに一丁前に一晩中吸い付いたあげく翌朝のアサリからは粘液の糸が10cmほども伸びて、そろそろ降参、貝殻オープンかと思われたが、まる一日頑張ったくせにアカニシは離脱して近くに居らず。ガマンが足りんのう。ま、エキスくらいは吸ったのかもしれないが、アサリは再び水管を出して生存中。ハンニバルとアンダーテイカーはおなかがくちかったようで水槽の隅でおねんねの様子、出て来ない。
(08.05.18)
←その後アサリは二日持ったが、前夜に陥落したようで貝殻オープン。キレイに喰われてました。ずっと取り付いていたのはチビアカニシのみ。他の連中は近づいて来ずじまい。ひょっとしたらアカニシってアッキガイ仲間の中でも上級の強面なのか?他の同類連中が一目置く存在なのか? まあ成長すると、イボニシやレイシをしのぐほど大きくなるみたいですがね。
(08.05.20)


↑イボニシにガンツケして喰われずに済むようなら、このままデスクボーイに居候させておきましょう。
時々けっこう活発に動き、砂に潜ったりしています。しかし磯にも行かずに住人が増えるのもなんだかなあですな。
それもまた強面の貝みたいだし。こんなヤツばっかりや…ウチの水槽の宿命か(笑)。
(08.05.12撮)

ウニどん、落ち着きなし

←ムラサキウニのウニどんの動きが活発に。水温があがってきたせいなのか? 飾り岩の穴を潜ってみたりしてウロウロお散歩。アンタにはあんまり動き回って貰いたくはないのだが。場所によってはメンテの邪魔になるし、そこらじゅうにトゲをぽろぽろぽろぽろ落として行くし。まあ、もし君がキタムラサキウニだったら、オッサンも多少の狼藉は許してやるんだけどなあ…白浜産まれだしなあ(笑)。
(08.06.06)

←水槽前面ガラスを高速移動中のウニどん。しかし冷凍シーフード片を銜えたままで歩き回るのは行儀が悪いぞ。ふいに「おそ松くん」のチビ太がいつもおでん串を持って往来で遊んでいたのを思い出した。関係ないけど。
(08.07.06)

磯のチンピラ、本領発揮

←しばらくの間アカニシを観察してわかったことだが、こいつ、冷凍シーフード片への反応がにぶく、よほど空腹にならないと食べようとはしない。反面、生きたアサリやシジミが入ると、30分以内に現地へ到達して吸い付いている。採集直後のハンニバルに近い反応だ。さて、写真はアサリもシジミも入らぬ日々が続いたある日。そろそろ空腹が限界に来たのか、ウニどんが持ち歩いているシーフード片に気づいたアカニシ君は…。
(08.06.24)
←かなり強引にウニどんの腹部(と呼んで良いのか?)に頭をネジ込んで行き、シーフード片の強奪を試みるアカニシ。ウニどんも早いとこ口(アリストテレスの提灯)に放り込んでしまやあ良いものを、チビ太のおでんみたいに持ち歩いてルンルンしてるからカツアゲにあうんだぜ。
(08.06.24)
←思いっきりカラダと口先をのばして、餌に到達。しかし、ウニも姿は強面のくせに案外気弱というか、抵抗せんな〜。まあたぶんこの時はエサの食い過ぎでお腹がくちくなっていたのだとは思うが。アリストテレスの提灯(口)が赤く色づいているのはどうしてかな?怒りか?違うか(笑)。
(08.06.24)

シーフード片、強奪完了
↑ついにウニどんから餌を奪い取ってしまったアカニシ。
生き餌ばっかり奢った生活してるから腹が減るんだ。
ここへ来たからにゃ冷凍品も喰う練習をすべし。よいかな?
(08.06.24撮)

そしてじんわりメタボるアカニシ

←普段は水槽の隅っこや砂に半分潜ったりして惰眠を貪っているが、すわアサリ・シジミが入った!となるととたんに急行で駆けつけて、たらふく食う日々を繰り返して来たアカニシ。およそふた月が過ぎて、貝殻をよく見てみると…う〜ん成長しとる。
(08.07.06)
←角度を変えてみるとこんな感じ。ウチに来て喰ったシジミ・アサリ・冷凍シーフードの栄養が血となり肉となり、貝殻となり、この白い増設部分とあいなったような次第。(実は、ハンニバルの死に、こいつが一枚関わっているのではないかと、ほんの少しだけれどオッサンは疑っている)
(08.07.06)

ハンニバル博士(クリフレイシガイ)死す。
↑2004年白浜組の残党は、砂中のゴカイやケヤリ類以外で言うと、
写真左のイボニシ「アンダーテイカー」とクリフレイシガイの「ハンニバル」だけになっていたけれど、
ついにハンニバルは貝殻(写真右)になってしまった。この二つの巻貝、採集時はほぼ同じ大きさだったのだが…。
(08.06.03撮)

←ハンニバル、生前最後の写真である。前回記事(33話)では果敢にアサリに食らいついていた通り、元気だったのである。ところが5月の中頃に水温が上昇しだすとともに、やたらと無闇に動き回るようになり、水面上や蓋のガラスにまで登ったりといささか挙動がイレギュラーな感じになってきていた。蓋のガラスにぶら下がっているのを見つけては海水に落としてやる日々がしばらく続いたのち、どこかに隠れた様子で姿がみられなくなった。その間、アカニシの来訪などもあったのだが、6月に入ってすっかり中身の抜けた貝殻のみを発見。死の原因は不明。老衰か、それとも…。
(08.05.18)
←レイシガイのハンニバル博士はひっそりと身罷っていた。…まあ4年も生きたのだから寿命、大往生と言っても良いかもしれない。ただ、岩崎センセの本には「レイシガイは粗食に耐え、10年以上生き、小さなサザエくらいに育つ」と記述があるのが気がかりだ。ハンニバルは餌はよく食べていたにも関わらず、この1〜2年はどんどんカラダが縮んで来ていた。やはりスガイやバテイラなんかの新鮮な磯の餌が足りなかったのかなあ。(この貝殻の左に開いている小穴の存在が、アカニシに疑惑を感じている理由のひとつであるが…)ちょうどメインデジカメの故障と時期が重なってしまったので、アカニシ、イボニシ、レイシガイのチンピラ三兄弟をワンショットで撮れなかったのが残念だ。
(08.06.03)
←スカベン水槽では、ご逝去に数日気づかないでいると、きれいな「ただの貝殻」になってしまう。チビが新居に使ってくれれば供養になるかもなんですが…。念入りに調べたりして結構興味津々の様子だが、いまだ試しに入ってみるにはいたらず。
(08.06.04)
←「大きさはだいたいいいんだけんど、やっぱりやめとこ」
チビ、お前さんひょっとして生前、博士にかなりいぢめられたりした?。
(08.06.04)

ひさびさに動きありの人別帳&過去帳です。
↑前回記事では元気にアサリを喰ってましたんですがねえ…
4年目の「ハンニバル」が逝きました(5月末〜6月アタマ頃)。
(08.04.06撮)

住人覚え書/2008.07.11現在

●先住者(2004.7.18採集)水槽在住約4年
・アンダーテイカー(C型イボニシ)

●06年春入居者(2006.4.18採集)水槽在住2年2カ月
・ホンヤドカリ:1(チビ)
・ヒメイソギンチャク:1(お吟婆)←種名はテキトーなのでご注意
・ムラサキウニ:1(ウニどん)
・アマオブネガイ:1(アマオブネA)

●08年春入居者(2008.5.12/スーパーの活アサリパックに混入)水槽在住2カ月
・アカニシ:1

●いつ混入および発生したかわからん入居者
・ゴカイ類:大小各種無数(採集・混入日不明/どう代替わりしたかも不明)
 ↑「ケヤリの仲間君」もこちらに含む(こいつらはいちおう最古参カテゴリ内の存在)

・カーリー軍団:(セイタカイソギンチャク?)無数この1〜2年に顕著 

●過去帳(2008.4.21以降/確認できたもののみ)
・没 ハンニバル・レクター博士(クリフレイシガイ)08.6.1頃没 水槽在住約4年間



お約束のレギュラーメンバー近況

←イソギンチャクのお吟婆は、元気なのか弱っているのかわからないけれど、あいかわらず健在。岩陰でしょぼくれていることが多いが、食欲は旺盛。海水交換のたびに産卵するのはもはや恒例になってしまった。
(08.06.03)
←ケヤリムシ(の仲間)も、毎日傘をさしています。最近、鰓冠のハリや色の鮮やかさがいくぶんくたびれて来たような気がする。
(08.06.03)
←ハンニバルの脱落で、当水槽一番の古株になってしまった、C型イボニシのアンダーテイカー。これは6月3日撮影の写真だが、大きなキクスズメを背負っている。ところが…
(08.06.03)
←6月24日撮影の姿を見ると、あれあれ、キクスズメがきれいに脱落している。ハンニバルは鬼籍に入ってもう居ないし、本人の口は届かないし…となると、こうまで強引に剥がすことのできる輩は誰だ?…ウニどんが管足を総動員してもぎ取ったと考えられなくもないが、やっぱり一番怪しい容疑者は新入りの…
(08.06.24)
←ハンニバルが縮み気味だったのに比べ、アンダーテイカーはどんどん成長して大きくなってきている。普段はおとなしくあまり動かない個体なのだが、6月の中旬以降は、けっこう活発に移動して、ガラス蓋にも上がってぶら下がるようにもなった。ハンニバルの死の直前の行動傾向と同じなので、少し心配。なので注意して見ているところ。まさかアカニシの影響じゃないよね?
(08.06.24)
←ライブロックの一部を拡大してみる。あいかわらずカーリー(セイタカイソギンチャク)が増殖しているが、かなり前からゴカイの仲間がいるのだ(茶色で固い棲管の先に二本の小さな触手のようなものが見えている)。でもこちらは花びらのような鰓冠が落ちてしまっていて相当地味なので、今までは写真を撮ることもなかった。永らく追加磯採集の機会がなく、水槽の生き物が徐々に減ってきたおかげで、ようやくこうして取り上げられるようになった。メデタシ。
(08.05.12)
←上の写真と同じライブロックの裏側にも一本(一匹か)でてるんです。
(08.06.03)
←地味といえば、いまだ健在のアマオブネガイA。あんた何食べて生きてるん?
(08.06.24)

↓さて、おいら無事にこの夏を越せるかな〜。
(08.04.22撮)
2008/07/11 (Fri)

 
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