ヤドカリと磯の生き物の飼育

16話
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忠治、黒松あいつぎ逝く

↑「磯蟹の忠治」の頓死でやっと海水水槽の覇権を制したと思いきや、自ら脱皮事故死してしまった、おまぬけな「白浜の黒松」であった。


 金魚の水カビ禍にてんてこまいしている間に、海水水槽の住人たちが、あいつぎ身罷ってしまった。梅雨前に連日水温が28℃を超える日が続き、それからコトンと26℃台に下がったりはしたけれど、今年はこまめに比重のチェックもしていたし、海水も定期的に換えていた。なのでこれといった死因は特定できないでいる。

 わたしは京都育ちということもあって、「海」のほうについては勘所がよくつかめないので、首をかしげるばかりである。こういう生き物の飼育では、子供の頃に自然の中で接した経験が大きくものを言う。接したというよりは毎年残酷にいじくり殺してきた年季といったほうが正しいのかな。まだ学校にプールがなかったころは、木津川の水泳場まで泳ぎに行っていたし、近所のため池や用水路で魚を掬ったりして持ち帰っていたから、淡水の生き物(水生昆虫も含む)なら、なんとなく「生態のツボ」みたいなものが閃くのだけれど、海ものに対してはそのあたりの感性が鈍いと思う。

 それでも毎夏、丹後半島や伊勢湾の海水浴場に連れられて行っていたが、交通事情が悪かった当時、京都の自宅まで海の生体を持ち帰るという選択肢はなかったように思う。一度、伊勢湾で地引き網内の掴み取りをしたことがあり、そのときはボラやらアカエイやら小魚やらをバケツに入れたまま車で急いで帰ってきたけれど、到着するなりみな煮て喰ってしまった〈笑)。その伊勢湾のほとりに住んでいたひとつ違いの従弟の家に夏休みに遊びに行ったとき、彼の海水水槽に採ってきたウナギなどを飼っているのを見て羨ましく思ったものだ。余談だが彼は蝙蝠も飼っていた。段ボールなどで、今で言うハムスター舎みたいなものをふたりで作ったこともある。蝙蝠のほうは、その後、自分でも飼ってみたことがあるが、すぐに脱走されてしまった。彼奴ら昼は大人しいが、子どもが眠い夜は断然元気なのであった。


↑「ヒライソガニの忠治」親分、脱皮が完了してようやく砂地に出てきたと思って見ていたら、体が固まってくるように徐々に動かなくなってしまった。写真の状態はもはや虫の息。後ろ脚が硬直してしまっている。

 まず、「ヒライソガニの忠治」親分だが、彼はホンヤドカリの黒松ともども、昨年(2002年)の3月26日に南紀白浜から息子に掬われてやって来た。ウチに来たときは甲長1cmにも足らず、そう長生きも出来まいと思っていたのだが、予想を裏切ってどんどん成長した。気がついた限りでは三回の脱皮をしている。

 ヤドカリと違ってカニは、スッポリときれいにまるごと脱いでしまうので、脱皮のたびに、ついに死んだのか、と必ず思わせられる。いつもは岩陰に隠れているくせに、ひらけたところに出てきてどろんと動かないので、水槽から取りあげてみると、これがもぬけの殻なのだ。あまりにも見事に脱ぐものだから感心して、彼の脱皮殻は三つとも乾燥させて残してあったのだが、一番最初のものはどこかへ紛失してしまった。たぶん風に翔んで金魚の水槽に落ち、ふやけたところを喰われてしまったのだと思う。

 二回目の脱皮は、その夏の8月30日だった(下写真1参照)。くたばったか、と思わされて、まんまと騙された。このときも一回り大きくなったのだが、今年〈2003年)になってますます大きくなり、親分、偉そうに十手二本振り回しながらわが物顔に歩いているわい、と思って見ていたら、6月の3日に三度目の脱皮をした(写真2参照)。この脱皮で、もはや成体といえる大きさになったと思われたが、脱皮後、どうも今までの元気さがない。いつも地回りに出張ってくるのに、砂に潜りがちで大人しい。水温もあがったことだし、すこし応えているのかな、程度に捉えていた。

 6月の23日に久々水槽正面の岩場にでんと構えて出てきていたので、最近にしては珍しいことだと思ったが、たぶん空腹でヤド餌を強奪に出張しているのだと思い、鼻先に餌を落としてやった。ところが翌日になっても、その岩場の前の砂地にベタリと寝ているので、おや?と思って注意してみてみると、もはや虫の息のようなのである。いつもなら、自分は砂に隠れていて、脱皮殻だけをこういうあからさまなところに脱ぎ捨てるので騙されるのだけれど、今回は脱皮直後である。連続脱皮なんて考えられないので、こりゃ本体が相当具合が悪いようだと気づいたが、手の尽くしようもない。まだ脚先や目玉がゆっくりと動いていたが、そのうちにゼンマイのねじが緩みきるような感じで動かなくなってしまった。6月24日、「磯蟹の忠治」親分、没である。


←(1)わが家にやってきてから2度目の脱皮時の脱皮殻(2002年8月30日)。甲の横幅は2cm程度。

↓(2)こちらは先日6月3日の脱皮殻(2003年/右は腹側)。約10カ月で甲の幅は2.5cm程に成長していた。親分の褌が鮮やか。
←こちらは亡骸。6月24日。堂々たるコワモテに成長してきたのに、惜しい。


 そして、ホンヤドカリの「白浜の黒松」も7月13日、突然死んでしまった。脱皮したあと、その数センチ隣で貝殻からゴロリと抜け出て死んでいたので、脱皮後の不全と思われる。やや水温は高めだが、比重は適性だった。カニ、ヤド両方とも白浜からやって来て、一年余りである。昨夏の海水濃度アップ禍をも生き延びてきたのだが、あっけない終末だった。特に、黒松にとっては、目の上のタン瘤であった磯蟹の忠治がゴネ、ようやく再び水槽の天下を捕った直後である。さぞかし無念であったろう。これで、白浜組は所在未確認ながらゴカイ一匹のみとあいなったが、昨夏やってきた明石組の「ユビナガホンヤドカリ」二匹は、細々とご健在である。

 わたしは、海に遠く育ったせいで、海の生き物に関してはどうも正しく飼えている自信がないのだけれど、これらのカニやヤドカリたちを、その道のヴェテランたちは何年くらい飼い続けることができるのだろうか? わたしのように一年少しで昇天では、ちょっと可哀相な気もする。とはいえ夏休みに入った。ガキどもが海水浴に行けば、また増えてしまうのか海の生き物? こう殺生が続いたのでは、もはや極楽行きはとっくに諦めているわたしではあるが…。


←元気ハツラツだった、ホンヤドカリの「白浜の黒松」だが、下写真の皮を脱ぎ捨てたあと、すぐ隣で貝殻から出て死んでしまった。体に損傷もなく、原因不明。
←黒松の脱皮殻。普段なら脱皮にちょっかいを出したのかと疑われるカニの忠治は先に昇天しており、シロ。いったい何をしくじったのだろう?
←黒松、忠治のあいつぐ変死で、海水水槽の住人は、明石のユビナガホンヤドカリ二匹と、砂のどこかに潜伏しているはずの白浜のゴカイ一匹となった。来宅一年の「クロチビ」。
←こちらは「シロチビ」。しかし、いよいよ夏休みに突入したぞ。キミたち二匹のみの天下は、いつまで続くのか…。息子のほうはそろそろ大潮を調べだしているようだが…

↓ほんとは飼い主の飼育ミスなんだよ!と訴える黒松。合掌。
2003/07/21 (Mon)

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