ヤドカリと磯の生き物の飼育

10話
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そして、最後に残った一匹だが・・・


 関西は、ぐずついた天候が続いているけれど、まだ暖かい。朝の気温も20℃以上あり、水槽の水温も25℃を超えている。
 この休日に全ての水槽にヒーターを設置する予定だが、まだ電源を入れる必要はないと思う。しかし、急激に気温が下がる日が間近に迫ってきている予感はするので、準備は早いに越したことはない。
 
 ひさびさのホンヤドカリのレポートになってしまった。夏の連続猛暑で日本海産の2年目のヤドカリが立て続けに全滅してしまったことは前回書いたけれど、この夏加わった明石産のチビヤドたちも、櫛の歯を抜くようにパタパタと逝ってしまった。
 7月21日に16匹採集してきたのだが、明くる日には10匹に、8月18日時点で6匹。9月1日には2匹となり、そのうちやや大きかった方が15日に成仏。いまも残っているのは、長い部分でも10mmに満たない貝殻に入っている、おちびさん一匹のみだ。
 8月中の大量死の原因は、水温の上昇もさることながら、それだけの数のヤドカリにあたえる餌の量がやや多すぎて、残餌が腐って水が汚れたせいだと思っている。また、どんどん死んでゆくヤドカリの死体が脱皮の抜け殻等とまぎらわしかったり、岩陰など隠れた場所で腐乱したことも大きい。
 しかし、並みいる強者、大きい個体のものが斃れていくなか、なぜ、このおちびさんだけが生き残れたのだろう。
 小さい水槽というものの、10匹以上のヤドカリがうろついていると、各個体のコンディションまで見極めるのは非常に困難だ。そのうえ、どれもが頻繁に貝殻を引越しするので、もうなにがなんだかわからなくなる。
 数が少なくなって、ようやく各個体別に観察ができるようになったころ、このおちびさんに注目していたが、かなり敏捷に活動していた。餌のニボシなどを大きい個体と奪い合いしているようなとき、大きい方がはさみを振り上げて威嚇すると、後方へ5cmほどぴょんと跳び離れたりしていた。水質が悪化して、他のヤドカリたちの動きが鈍くなってきていても、このチビヤドはさっさかさっさか動き回っていた。汚い水に対する抵抗力が強いのだろうか。


←「もう俺様だけだから、なにしようと勝手だもんね〜。メシも食い放題、着替えもし放題。この貝殻、全部俺様の。しかし、ちと淋しいね」

 今は、ただ一匹のみ。餌を奪われる相手もなく食い放題。水もそう汚れないし、宿替えの貝殻も選び放題である。小さな体だから、デスクボーイ水槽といえ相当広々としたスペースになる。
 そういう独占環境を得た割に、一時の元気がなくなってきた。さあ、どうなる? 仲間の後を追って逝ってしまうのか? それとも単に、敵の消滅で無駄に体力を使う必要がなくなったことによる怠慢か? ヤドカリだって淋しいのか?
 水槽管理者としては、たとえキミ一匹でも、冬越しのヒーターを設置し、照明を施し、海水の水換え、底砂の清掃は行ない続けなければならないし、またその覚悟はしてある。まあ、何とか無事冬を生き延びて、新しい春を元気に迎えてほしいものだと願っているのだが・・・。
 息子が命名したこのヤドカリの名は「チビ」である。





2001/10/05 (Fri)

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