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文庫本読書倶楽部
98
東京珍景録

東京珍景録 98 東京珍景録

林 望 著
新潮文庫
路上観察エッセイ&写真

投稿人:cave ☆ 03.06.13
コメント:愛好筋の人間には捉え方の一例としてお勧めだが、そうでない人には…?


 往来にある「妙」なものを通りすぎてしまう事無く気にとめ写真に記録し、考察エッセイを添えた、いわゆる「路上観察」ものの傍流といえようか。カラー写真ページが挿入されるビジュアル文庫である。したがって多少割高になる。余談であるが、文庫のビジュアル本、以前は写真をおもんばかるあまりか、特別にかなり厚く白い紙を使用していたこともあり、開いた本がすぐ元に戻ってしまったり、扱いが難儀だったり、相当割高になったりしていたように思うが、本書では、ずいぶん改善されたように思う。このあたりの紙質で十分美しいし、読みやすくなった。カバーのイラストも味わいがあって好きだ。

 単行本で買うほどに、自分の趣味の琴線を刺激するところまでいかない内容の場合、ビジュアル文庫化は、ありがたく思えるものだけれど、トシをとって眼が言うことをきかなくなると辛い。若いころデザインの仕事の折、このほうがオシャレだからと、あえて小さな級数の文字を詰めて使ったりし、先輩に注意されたこともあったが、今や、よ〜くわかる。とくに本ジャンルのように、小さな写真からそのディテールを読み取る必要がある場合やおや。文庫ではないが、宝島社の「VOW」なんてのも、もはや読むのが苦痛以外のなにものでも無くなってしまった。あきませんな。

 さて、私も「この筋」の人間でありまして、往来のヘンなものに関しては、どうにも魅かれてしまうタチであるのだが、何分ものぐさのため、いちいち写真に記録することをやりだすと、荷物は増えるし気も散るということで、ただ想いを巡らせるだけにしてきた。まあ、最近は軽量のデジカメという便利なものが出来たので、おっとり刀で撮るようにはし始めたけれど、もはや先達との差は大きい。

 「この筋」始祖の「赤瀬川原平」派は、芸術寄り観点から考察を進めているので、そのもの自体の歴史的必然性や時間の流れというものにはあまり深く立ち入らない傾向があるのだが、本書の方は、逆にその出自を探る方向で纏められているので、また違った趣がでている。前者が見向きもしないであろう物件でも、熱っぽく取りあげたりしているあたりは、なかなか面白いところだ。わたしにとってまったく「ン?」と思わないような物件も出てくる。巻末解説の泉麻人氏も「その筋」のヒトなので、複雑な心境の感想を書いておられる。

 著者はそういう物件を「珍景」と呼び、泉氏は「奇観」など、宝島は「VOW物件」、赤瀬川派は「トマソン」と名付けてその概念を言葉に変える試みをしてきた。ちなみにわたしは「異様なもの」、と呼んでいる。まあ、これらは偏狭趣味の極みに近いジャンルであるので、筋以外の人にオススメしても仕方がないであろう。

 最後に一点。しかし『川瀬巴水』の版画を持ちだすのは、ちと反則のような気がするのだが…


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