cave's books
文庫本読書倶楽部
47
わたしの流儀

わたしの流儀 47 わたしの流儀

吉村 昭 著
新潮文庫
随筆集

投稿人:コダーマン cave追 ― 01.06.21
コメント:---


 なんとなく買って、期待して読んだ。面白かった。
 どこが気に入ったのかあとになってわかった。「流儀」という言葉の良さについ買ってしまったのだった。
 自分自身の生き方の軸を全くぶらすことなく日常を過ごしている作家という感じが、とても良く出ていて、作品同様カッチリした人物である。
 それで、私自身を省みながらこの本を読んだのだけれど、ほとんどひとつも「この意見には反対だな」ということがなかった。ふた周りも上の年齢の、実力のある作家の心情と私のそれが一致してしまうということが非常に面白かった。
 自分が老成してしまったかのように感じて、少し嫌な気もしたが、早く頑固じじいになりたかった私としてはおおよその目標は達したか、という感じもある。
 酒を飲まないでどうして人生が楽しめる? といった語り口がうれしい。それと、地酒の楽しみが無いような旅はつまらないと言っている。
 私が日頃言っていることそのままである。
 15才と、30才では全然違う人生を体験しているので、その二人が多くのことで意見の一致を見るのは難しいと思う。しかし、そのままの年齢差でも、55才と70才まで生きてしまうと、意見の一致を見ることがどんどん増えてきてしまうというようなことではないだろうか。人が、日々の小さなことをきちんと意識し「どうしてそうなんだ? それが大いに気に入っている、大反対だ、根っから嫌いだ、そんなことを考えたこともない」というようなことを積み重ねて生きてくると、どうしたって人生にはそういうこともあるということで、あれこれ一致してきてしまう。そういうことらしい。
 そうでもなければ、この作家と私の生き方、物の考え方が一致するわけがない、と思いながら「そうだそうだ」と頷きながら読み終えた。
(コダーマン)



 この本、たまたま私も読み終えていたところ、コダーマンにご投稿をいただいたので、少し付け加えさせていただくことにした。ご容赦を。
 著者とコダーマンはふた周りの齡の差だが、私に至ってはなんと三周りである。そんな私でも著者との「流儀」の共通点を見いだす部分が大いにあるのだけれど、まだ、年齢の積み重ねは氏の半分強に過ぎない。したがって読んでいると、頷ける部分ばかりでなく「これはちょっと頑固過ぎるなあ」と思ってしまう部分も出てくる。この、舌を巻く頑固さ、の印象が薄らいで来れば、私もそろそろ「偏屈」から「頑固」に出世できるということなのだろうか。
 著者の随筆は、妥協のない、綿密な調査の上に創作される小説の「精度」を保証してくれる、格好の資料でもある。少年時代の体験や、大病の経験、作家への道のりの流れの中で、氏の「執筆」に対する姿勢を十分確認することが可能だからだ。「史実」を題材にされた氏の小説の「信憑性」は、随筆を読むことによって、数倍高められることになるだろう。
 私が最もおすすめしたい吉村昭の随筆は、『昭和歳時記』(文春文庫)である。『東京の下町』(同)も良い。しっとりとした、当時の社会や風俗の描写もさることながら、私にとって憧れの「頑固じじい」の若き日の「頑固」かげんも偲ばれて愉しい。
 当欄No.12の『朱の丸御用船』にも、私にとっての著者の印象を記してあるので、あわせてご参照いただければ幸いです。
(cave)


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