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文庫本読書倶楽部
34
鰻の寝床

鰻の寝床 34 鰻の寝床

内海隆一郎 著
光文社文庫
連作小説

投稿人:コダーマン ― 01.03.12
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 新橋界隈の小さな料理屋を舞台にした連作小説。実に、おいしい。泣ける。
 新橋という場所の設定は、戦後の混乱期に何とか頑張って店を出したり、店を甦らせたりした、あるいは生きるために何かしたのが食べ物屋だったり…という店の始まりを語るために選んだようだ。大混乱と焼け跡からの復活、親を失った子供を引き取った夫婦、朝鮮人、兄弟と離ればなれになってしまった人、その人たちの50年とそれぞれの店の「旨い秘密」が話の筋立てになっている。
 牛鍋、洋食、鰻、天ぷら、ホルモンなどなど。おいしい料理を出すについての開店前の下ごしらえにも筆を尽くす。軽く書いているようで、実に良く知っている。そして、常連たちが店の商売を邪魔しないように、にぎわう時間をはずして顔を出すという心遣いがいい気分。そういうものなのだ。
 読んでいる間中旨いものを食べた気になる。そのおしさと、家族をネタにした人情話が上手に重なって実にほのぼのとした物語が多い。同じ作家の、先行する文庫『鰻のたたき』があることを知って、すぐに注文した。
 小さな店、夫婦や親子で切り回せる規模の店。おいしさの秘密と、店の裏側「家族たち」の思わぬ悩みが静かに淡々と描かれる。これは、人情小説の見本のような一冊。こういう小説が書きたい、という気になった。


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