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119
熟年性革命報告/熟年恋愛講座

熟年性革命報告熟年恋愛講座 119 熟年性革命報告
    熟年恋愛講座−高齢社会の性を考える

小林照幸 著
文春新書
ノンフィクション(熟年の性について)

投稿人:コダーマン - 04.11.01
コメント:遠慮しがちだが、高齢社会に語るべき話題だ


 自然に性的欲求が高まり、それを満足させる相手もいる若い世代、あるいは満足させる方法が普通にある若い人には、まだこの本は必要がないかもしれない。 
 やがて、その性的欲求が歳とともに薄まっていって、熟年に達すればもう「やりたい」気が失われてしまうものだという「常識」は間違いだと教えてくれる本だ。
 年齢を重ねて、徐々に枯れていけば「性の欲求が消え、そっちの興味を失っていくもの思っていて、そうした欲求を自分で押さえ込んでいると」自分自身が生きる力も失われていきがちであると、現実を踏まえての報告である。

 2004年に出た『熟年恋愛講座』を書店で見つけて、興味を持って手に取ったら、その前に『熟年性革命報告』が出ていることがわかった。
 新書にいつも目を配っている私としては、見逃したんだろうか、それとも熟年の性について「まだ早い」と思ったのか、いずれにせよ、順番に読まなければいけないと思って手に取った。
 この著者が、ボランティア活動で接した熟年男女の性の「ありよう」についての報告が非常に意義深い。今の日本、これだけ高齢者社会といわれていながら表だって話すことがためらわれる「熟年の性」について真面目に、明るく、そして正しく書いた本。非常に勉強になった。

 熟年というより、老人、高齢者が暮らす施設の中では「性的表現」がタブー視されていると、私も想像していた。基本的にはそうらしいが、70代、80代、時に90代に届いた男女でも、恋愛的な感情が芽生えたり、性的な欲求が高まり、時に、他に手がないからマスターベーションをしたりということがあるという。それが特殊な例ではなく、それが基本であって、本当に弱ってしまって生の残り時間が短くなってはじめて「枯れていく」のである。

 人間が生きるということ「生」と、生きていくことの意欲の元「性」とは大きく重なるというのだ。「生と性」は語呂合わせではなく、これは離して考えることではないらしい。
 老人養護施設に、かっこいいお爺さん、あるいは逆にきれいなお婆さん、こういう場合は「老紳士、老婦人」というのか、そういう人が入所すると、異性がそれを意識するようになって、一日パジャマで過ごしていた人がちゃんと着替えて過ごすとか、リハビリテーションに力を入れるようになるということがどこでもあるらしい。

 どこでもそういうことが見られる、というのがすごい。素晴らしいことである。それほど人間にとって「異性」が重要であり、女に、男にもてたい気持が生きる力に繋がることが大きいというわけだ。よく見られたいから、パジャマではなくきちんとした格好に着替える。これまで自分で着替えることができなかった人が、なんとか着替えるように努力し、できるようになって施設の中での会話に加わる。あるいは、車椅子での生活でいいとしていた人が立ち上がる、歩くという辛い訓練に挑んで、施設の廊下を杖があれば歩けるようになるという意欲、それが異性の登場によって出てくるとしたら、よりよい形で活用していくべきだろうと思う。

 それについては、施設の長に理解があるか、そうしたことに気づいていてよりよいようにするにはどうすればいいかを考える人かどうかに大きくかかっているという。
 こういう施設で男女の問題はもってのほか! という考え方と、もう大きな間違いは起こらないだろうし、それは自分たちが目を配ればいいことで、高齢になっても男女が親しくするのは悪いことではないと見ることができるかどうか。そういうことで施設にいる人たちの生きる気力が全然違ってしまうということがあるのだそうだ。
 こうなると、人生の終盤の「人としての心」を無にされてしまうような場合もあり、最後の最後まで楽しく生きられる所もあるということになる。
 施設側としては手に負えない大きな問題に発展する場合もあることはあるらしいが、人間が最期の時まで異性を意識して生きた結果、満たされるのであれば男女共に「老いの性の自由」は守られなければいけないということになる。

 また、自宅にいて老いを迎えた人、特に男性が「風俗」にいって若い女性と接することで、生きる意欲を出して日々を元気に過ごしているということも多く見られるのだという。金がかかるのでそうそう毎日は行けないにしても、そこに行って単に触れ合うことで充分心が満たされ元気を出す、中には本当に接することのできる人もいるようでそれはそれで元気を証明しているようなものである。それも、子供たちに「父はみっともないことをしている」と思われて、手を打たれたり、小遣いがもらえなくなれば、元気の元がいるところに行けなくなってしまうのだ。この高齢者向け風俗があるという話も非常に面白い。女性用がないということが問題とも書いている。

 「もう歳だから、枯れていいのだ、性欲がある私は年寄りとしてみっともない」というような思いは間違いで、男は女を女は男を意識して心を熱くすることが続く限り、生の火も燃え続けるものらしい。そうしたことを、日本の高齢者の多い現場での経験を元にしてじっくり書いたこの2冊の本は素晴らしいと思った。
 自分のこの先の元気と衰えを思うときに、この本は励みになる。
 週刊誌やテレビでの「性の氾濫」はあるのに、猛烈な数の人々にとっての問題である老人の性についてはほとんど大きな場所で語られることがないと、著者が書いているが、そのことを気づかせてくれた本でもあった。
 若い人には無関係な本といったが、自分の両親、祖父母の現実的な問題であると考えることができる人には、必読の本だと思う。


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