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101
日本陸軍の傑作兵器駄作兵器

日本陸軍の傑作兵器駄作兵器 101 日本陸軍の傑作兵器駄作兵器 ―究極の武器徹底研究―

佐山二郎 著
光人社NF文庫
戦争ノンフィクション

投稿人:cave ☆ 03.09.03
コメント:日本陸軍の傑作兵器とは、結局「兵隊」だけだったような…。


 当欄42回に紹介した「ドイツの傑作兵器駄作兵器」の内容がかなり異様で興味深かったので、同種のタイトル及び装幀で出版された本書を思わず手に取ってしまったが、この「日本陸軍」版は、原出が雑誌「丸」に連載された「兵器クローズアップ」というコラムであり、集成・文庫化の際に、先のドイツ編に合わせた「傑作兵器駄作兵器」のシリーズタイトルがつけられたようである。したがって元稿自体が「傑作兵器駄作兵器」という視点で書かれたものではなく、全体に真面目な日本陸軍の兵器研究書となっている。「仰天!」「超無茶!」「無理筋!」「夢物語!」「爆笑!」といった異様兵器を期待して読んだわたしは、多少肩透かしを喰らった気分になってしまった。

 しかし、まあ、ヒトラーの妄想によるツルの一声で、高度な技術力と頭脳を総動員して、真剣に国家的開発プロジェクトが動いたドイツと、優柔不断な日和見指導部が牛耳り、精神力が最大の武器と考えた資源・技術小国の日本陸軍とを比較すれば、傑作にせよ、駄作にせよ、そのスケールが極端にショボくなるのは仕方がないところか。日本海軍ならまだしも、「大和」だの「伊400潜」だのという仰天兵器を実戦に登用していたのだが、本書に列記されている陸軍の兵器ラインナップ(小銃や擲弾筒など)を見るにつけ、わたしは幻滅の感を色濃く感じてしまう。精神力じゃ勝てませんっての。

 腰巻には「特異な思考法から生まれた兵器の数々…」とあるが、自動小銃の開発にしても未完に終わったのは、弾薬を鱈腹使うより、白兵戦に持ち込んで肉弾で撃破せよ、というような「特異な思考」が作用したわけで、どちらかといえば「生まれなかった兵器」のほうが多いのではないかと思ってしまう。牽引車(トラクター)ひとつ満足に作れない技術力がお寒いところだが、そのくせ特攻的ニュアンスのものはテキパキと開発を進めたりしてしまうところは、たしかに異様ではある。戦況の悪化と資源枯渇のなかで開発された陸軍の水際兵器、「電池推進式魚雷」(テスト三回で幕)、海岸に迫る敵上陸用舟艇を海中で待ち伏せ、いきなり浮上して攻撃しようという海中トーチカ「浮沈特火点」などがそうだ。いずれも敗戦まぎわの土壇場に開発が開始された兵器である。それにつけても、貧相なこと。〈本書に陸軍航空機に関する記述はない)ただ、満鉄用に仕立てられた装甲列車〈アーマートレイン〉「九四式装甲列車全十二両編成」の写真には少々魅かれるものがあったが…。


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