おかやどかりの飼育

17話
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責任重大!(汗)―郵便局のオカヤドカリたちが越冬疎開にやってきた―

↑郵便局から越冬のため疎開してきた三匹のオカヤドカリ
左から「2号」「名無しちゃん」「1号」

 独立してから郵便局に足を運ぶ機会が増えた。仕事場から最寄りのポストと局までの距離がさほど変わらないし、なにしろ平日の日中はヒマなのである。切手を貼って投函するより、局員さんにスタンプやシールを貼ってもらうほうが粋である(なにより、領収証が貰える)。それに「請求書在中」の封書をドサッと窓口に渡すのが小気味よい。ただし、過去同時投函の最高は二通なのだが…。

 この夏のある日、ウキウキと請求書を出しに郵便局に行ったとき、局の待合テーブルに「オカヤドカリ」がいることに気づいた。脇にパンフレットが置いてあったので、「ゆうパック・ふるさと小包」の通販見本である、と思った。飼育環境があまりにも悲惨なので、その販売形態に怒りを覚えて「ぼやコラ」(02.7.2/クールなヤドカリ便)でぼやいてしまった一件である。その後、局を訪れるたびにヤドカリたちを覗くのを愉しみにしていたのだが、このままの状態で気温が下がってくれば全滅は免れないと思い、通販申込期限最終日に局員さんにヤドカリの今後の処置について訊ねてみた。処理に困るようであれば引き取ろうと思った次第である。そのときの応えは、「気温が限界近くまで下がったら引き取りに来て欲しい」ということだった。「あらら、見本なのに結構可愛がられているみたい」と、やや安心して局を出た。


↑郵便局テーブル上のやどかりケース(02.07.11)
↑この環境での冬越しはちょっと厳しいかな、と。

 その後、局に行くたびにヤドカリの様子を見ていたのだが、なにしろ出す請求書がなくて…(涙)行く機会があまりない。で、この29日、出す請求書はなかったのだが(涙涙)、気温がガクンと低くなったので心配になり、ヤドカリのご機嫌を伺うためだけに郵便局に寄った。ところが、いつも定位置にあったヤドカリケースが見当たらない。一瞬、「ああ遅かったか…オレがヒマで請求書が出せないばっかりに!」と嘆きつつ、局員さんに訊いてみたところ、気温が下がったので機械熱で暖かい場所に移したのだとおっしゃる。よく話しを伺うと、このヤドカリ、実は「見本」ではなく、生き物好きの局員さんが購入し、大切に飼育されているのであった。

 それなら、私がしゃしゃり出ることもあるまい。一日中稼動発熱している機械の側なら、砂さえ入れてやれば大丈夫だと思い、方法をお教えしたが、引き取って欲しいとの仰せ。う〜ん、これは責任重大である。名残惜しそうになさっているので、当欄で随時近況を報告します、とURLをお知らせしてケージを持ち帰った。

 というのが、今回の局ヤド越冬疎開の顛末であります。

←飼い主の局員さんによると、このヤドカリの名前は「1号」。なるほど、貝殻にマジックで「1」と大書してある。三匹のなかでは、もっとも色白だ。写真のようにひとしきり水分を吸収したかと思うと、そそくさと砂の中に潜ってしまった。
「1号」では、あんまりなので当オカヤド舎では、愛称「郵(ゆう)」くんと呼ぶことにする。フルネームは「郵政1号」ということにしとこう。
←マジックが剥げて読み取りにくいのだが、このヤドカリの貝殻には「2」とある。局員さん命名の「2号」ということになる。体色は灰色がかっている。
この「2号」、ときどき「カチカチ」というような音をたてて鳴いているようだ。モールス信号みたいなので、ニックネームを「逓(てい)」くんとしとこう。フルネームは「逓信2号」である。
←もう一匹のこのヤドカリの名は局員さんによると「名無しちゃん」というらしい。腹部は白いのだが、足とハサミは赤い。ので、もう決まりですね。愛称は「ポストちゃん」だ。フルネームは「ポスト名無しちゃん」。宛名不明郵便。
「ポストちゃん」は、当オカヤド舎先住者のやもめ、「ヤド」のお気に入りである。今のところ三匹のオスメスは不明だが、そのうちに調べて見ます。もはやみんな砂に潜ってしまっていて調べることができない。

 天気が良かったので、ちょうどオカヤド舎を日光消毒中であった。そこに局ヤドご一行三匹様のご来訪である。ケージの底はふるさと小包仕様の荒い玉石だけなので寒さが応え、さぞかし弱っていることだろうと思いながら、貝殻に引込んでいる三匹をオカヤド舎の砂の上に置いてみた。あらあら三匹ともすぐに出てきましたよ。いたって元気じゃないですか。カサコソとさかんに水槽内をご見聞。すると半分砂に潜ってショボくれていたウチのやもめヤドも異変に気づき、「ん?」と身を起こしてきた。さあ、喜んだのなんの。急に活気づき、近くを通る局ヤドに誰彼かまわずガバ!と抱きついている。昔、ディズニーのアニメで、セクシーなメス猫を見た野郎猫の目がハート型になるシーンがあったが、あんな感じか。越冬中一番危険なのはこいつの存在だな。要注意である。とくに脱皮中のちょっかいがかなりアブナイ。

 写真を撮影しながら、先住者が悪さをしないか2時間程じっと監視していたが、脱皮以外の場合はなんとか問題なさそうである。うちのヤド(名前:宿六/通称:ヤド)も当家に来たときは、この局ヤドたちより小さかった(なにせ一番安い100円の)くせに、何度も脱皮をくり返し冬越しをして今は随分大きくなっている。この大きさの差が危険なのである。脱皮中で動けないところを、ヤドがブルドーザのように掘り返してしまう可能性は大きい。幸いヒーターは一つ余分がある。水槽を分けるか否か。しばらくは様子を見てみよう。

 さて、どうやら水槽内も落ち着いたようなので、観察の頻度を多めにすることを心がけてデスクに向かった。サイトをチェックしてみたら「偏屈酒場」に早速、郵便局員さんの書き込みが…。なんと、局ヤドにはおのおの名前まで付いていたのでした。オカヤドカリは表情に愛嬌があって、見ているとほほ笑ましくなるところがある。局員さんが愛着を持って可愛がられていたことが、ひしひしと伝わってくる。こりゃ、責任重大。さあ、三匹の局ヤドたちは脱皮等の困難を切り抜けて、春には無事郵便局に里帰りすることができるのか?……つづく。


←体を半分砂に潜らせて惰眠をむさぼっていた当家の「宿六」と「ポストちゃん」が初のご対面。「おや?」てな感じで触角をさかんに動かして様子を窺っていたが、いきなり……
←ガバア!と抱きつく「ヤド六」。慌てて貝殻に引込んだ「ポストちゃん」を手元でくるくる回して品定め。そのとき近くを「逓(2号)」が通りかかったので、今度は「2号」に矛先を変えた。三匹ともにかわるがわる何度も抱きついていた。悪さをしないかどうか、じっと監視していたが、飽きるのかすぐに放してしまって、特に何もしない。
←お仲間が増えたことを認識した「ヤド六」は急に活気づき、いそいそと抱きつき行為をくり返した。迷惑そうな表情の「逓(2号)」と「ポストちゃん」。
←「逓(2号)」にのしかかる「ヤド」の背中に、果敢にも乗っかろうとする「郵(1号)」。なかなか勇敢なヤツだ。

ポストちゃ〜ん。激ラブ!なのかよ↓
2002/10/31 (Thu)

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