おかやどかりの飼育

06話
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オカヤドカリ、脱皮す。


 2週間ほど前、オカヤドカリが、せっせと喰い溜めをしたのち砂に潜ってしまった。
 暖かくなってきたのに、また潜るのかと残念に思っていたのだが、今日掃除の折に水入れを持ち上げてみると、その下の、奇麗に丸く掘り抜いたスペースで脱皮を終えていた。
 抜け殻がリアルだったので、一瞬死んでしまったのかと、はっとしたが、貝殻の奥に新しいはさみが見える。

←オカヤドカリの抜け殻
右上小写真撮影時は、抜殻腹部は食べてしまった後だったが、胸から前はそのまま立った形で残っていた。貝殻の奥に引っ込んだ新しいはさみが見える。
中央写真はおよそ三時間後、殻胸部、頭部も食べたらしく、足とハサミ部分が倒れた形で残っていた。

 じっと観察していると、はさみが少し動いた。どうやら元気なようだ。写真を撮った後、穴の上に元通り水入れで蓋をした。
 撮った写真がボケていたので3時間後、再び覗いてみると、抜け殻の形が変わっている。
 やはり、脱いだ殻を少しずつ食べて栄養を補給しているようだ。
 前回、細か目の砂では穴が擂鉢状になってしまい、潜りにくいと書いたが、横穴を掘ってゆき、陶器の水入れを屋根にするとは、ヤドカリもよく考えたものだ。感心した。
 下の写真は潜る前に撮影したものだが、このうつろな視線は、脱皮の算段をしている眼だったのだ。
 失敗すなわち死である。結構な覚悟が必要であろう。
 脱皮…、いったいどんな感じがするのだろうか?だんだん身体がムズ痒くなってきて、動かなくなってくる。そして失敗すれば死に、脱皮中を襲われれば喰われてしまう。
 その大事業に望む、うつろな視線…う〜ん深い。
 昔、酒場の馬鹿話しで、人間の女性に生理というものがあるように、男には『脱皮』があったら面白いのではないか、という提案をしたことがある。
 酒場ではこのテのネタはイメージがどんどん増殖していくもので……

 「オヤ、caveさん。顔色が悪いですよ、大丈夫ですか?」
 「なんか、来たみたいです。」
 「え、ああ脱皮、ですか。」
 「…去年の暮れに、あったんですがねえ。」
 「それは、少し不順気味ですね、それで、どんな具合ですか?」
 「あ、左手の小指はもう動かなくなって来ました!」<
 「そりゃあ、急いだほうがいいですよ。危ない。救急車、呼びますか?」
 「いや、三丁目の『脱皮カプセル』に行きますよ。ポイント貯まってるもんで…それに入院すると高く付くし。」
 「じゃあ、脱皮休暇届け、私が出しといてあげますから、急いでください。そろそろまばたきも苦しそうじゃありませんか」
 「あの…女房には内緒にしといていただけますか?」
 「え、どうして?心配なさいますよ。」
 「いや実は、先週、脱皮を口実に一週間、コレと温泉にいっちゃったもんでね。」
 「ああ、あの有給、そうだったんですか!」
 「すびばせん…どろじくおべがいじばず」
 「ああ、固まってきちゃった!caveさん、caveさん!お〜い担架だ、誰か担架を〜!」


 オカヤドカリのうつろな眼には、脱皮に臨む男の哀愁を感じる。(ウチのは雄か雌かは分かってはいないのだが)


↓脱皮前のオカヤドカリの表情。思索する?眼。
2001/04/16 (Mon)

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