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文庫本読書倶楽部
26
ウルフ・ムーンの夜

ウルフ・ムーンの夜 26 ウルフ・ムーンの夜

スティーヴ・ハミルトン 著
早川文庫
海外ミステリ

投稿人:コダーマン ― 01.02.13
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 この作家は、前作のデビュー作で、「私立探偵小説コンテスト最優秀作」を受賞したあと、「アメリカ探偵クラブ作家賞」と「アメリカ私立探偵作家クラブ賞」の二つも受賞している。新人で三冠王みたいなもの。誰もが第二作は大変だぞ、と思うわけだ。読者の私もそう思った。
 ところが、いいんだ。猛烈にいいんだよ、これが。
 かつて優秀な刑事だったが、強盗に銃を撃たれて倒れた。九死に一生を得たが、銃弾が心臓の近くに止まったままで、微妙な場所なので手術で取り除くことができない。そのまま勤めることもできず、警察を辞めて、父が持っていた湖近くのロッジの経営をするつもりで田舎町にやってきた。
 銃を撃たれたときに、同僚が殺されて、それは自分のせいなんだと思い詰めているところがある。そういう職業なんだから、と割り切れない。「オレがあのとき素早く反応していれば」と、割り切れない部分が陰で、人間としての味わいが出る。
 田舎街で探偵なんかやるつもりはないのだが、前の騒動では探偵の仕事をしてしまった。地元の警察署長は、引っ越してくる前優秀な警察官であったことを調べて知っていて、当然、煙たがっている。今の、お前は警察官ではないから首を突っ込むな、とあからさまな態度である。しかし、主人公はいい奴なので地元の飲み屋では人気がある。それに街に馴染んで腰を据えて暮らそうとしているので好感を持たれている。好感を持たれているので、この話ではアイスホッケーに誘われる。
 地元のインディアン・チームのゴールキーパーにならないわけにいかないはめになってしまう。楽しみだから負けたっていいのだが、相手チームに元プロ選手がいるのだ。こいつが、素人チームに混じってエースになって威張っているようなレベルの元プロであることを主人公は一瞬で見抜く。「お前はプロとしては二流だったんだ、そういう類の人間なんだ」と視線で話しかけ、一瞬で見抜かれたことで相手はかっかしてしまう。ヤク中で、体がでかく、愚かしくて、敵意を持つ。そんなことをするのではなかったと思ったときには、もうまずいことになってしまっている。
 この元プロアイスホッケーのヤク中と、その女にからんだ騒動に主人公が巻き込まれる。あんな男から逃げたいという若い女を助けることにしたが、油断した隙に女が消えてしまう。誰が誘拐したか? ここから話がぐんぐんスピードを上げていく。捜査を始めると程なく、ヤク中たちの向こう側に麻薬コネクションがあることがわかる。そして、そのコネクションと敵対している別のグループがいることもわかる。話は複雑に、問題は深まっていく。
 能力は認めているが嫌っている主人公に対して、全く好意を示したくない警察署長だったが、自分の管轄内で自分をないがしろにするような行動をとる人間たちが現れるにいたって、署長は主人公と同じ側に立つことになったりもする。寒い寒い街の、温かい人間関係が、読み終えたときに「涙もの」である。
 心臓の横にある銃弾のことを思い、友人を殺してしまったと思い悩むことで一瞬の判断を誤ることのある主人公。せっかく親父が残してくれたロッジの経営が順調になってきたというのに、奇妙な事件に巻き込まれて、と主人公はうんざりするが、正義はなされなければいけない。という、ミステリの典型でありながら、ほろっとする。こういう小説も読み終えたときに、本当に読んでよかったという気がする。年に何冊もあるわけではないので、読み終えて少し惜しい気もする。


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