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文庫本読書倶楽部
17
沈丁花 観相師南龍覚え書き

沈丁花 17 沈丁花 観相師南龍覚え書き

庄司圭太 著
集英社文庫
時代小説

投稿人:コダーマン ― 00.08.30
コメント:---


 時代小説で、連作物、そこそこ面白くて、途中で読む気が失せない程度に楽しめる小説。これが読みたかった。
 池波さんや藤沢さんを読み、古くは柴錬、最近では平岩弓枝、北原亞以子などを読み続けている身には、そこそこ面白いの「そこそこ」のレベルを案外気にする。
 さて、やっと見つけだした連作小説の主人公は、観相師南龍というぐらいで、人相見である。文庫本で三冊か四冊出ていることは知っていたが、作家の名前に覚えがない。私の知らない作家でも高く評価されている人はいくらもいるが、読むのは私であって、面白くない本に金を払うのは厭やだからかなり慎重に読み始めた。
 有り体にいえば、この作家は徐々にこの連作小説に慣れて来て、主人公の性格もはっきりして来たし、こうしたものにお決まりの、主人公の知り合いとして登場する八丁堀の旦那も味を出して来た。
 あえて、人相見が主人公の捕り物小説という始め方をしてはいないが、結局は捕り物の連作小説という色を濃くして来た。観相師が主役というので、死相が出てもいないのに、次の日その男が殺されたことを知って「そんなはずはない」と、個人的に調べてみるというようなことで「事件」になっていく小説である。
 自分の人相見の実力からして見間違いとは思えない、と自分を信じる。その殺人事件の内容を知りたくて、かねて知り合いの八丁堀に話を聞いたり、詮索好きの江戸っ子に「ひとっぱしり」用を頼んだりで、捕り物になっていく。まぁ、そんな風にして話は始まった。
 また。
 目隠しをされて連れて行かれると、やんごとなき姫の人相を見るように命令される。そこに連れて行かれる前に、必ず「明るい将来が見える」と言ってくれと頼まれているのである。顔を見ると、非常な不幸に見舞われる相が出ているので、金は欲しいが命じられた通りに言ってしまうと大変なことになると判断する。さて、本当に見た通りの判断を言ってしまうと命が危なそうだし、かと言って嘘もつけない。という風に小説はできて行く。なかなか上手な運びになって行くのである。
 殺された人間の顔を見てくれと言われ、死顔からこいつの過去を探れという無理難題を持ちかけられたりもする。
 江戸の街が活写されているとは言い難いし、登場人物に「笑い」が少なく、遊びも少し足りないが、巧みではあるし、これまでにないタイプの主人公というのが魅力の一つになっている。この連作は、親本があって評判になって、文庫にしても売れるという判断から文庫化されたものではなく、文庫のために書き下ろしている。その辺に、選ばれて文庫化されたというレベルではない質的な揺れはあるが、今出続けている時代小説捕り物系は数が限られているので読んでもいいと思う。
 『沈丁花』、『天女の橋』、『蛍沢』と続いてこの8月、シリーズ5作目が出た。


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