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文庫本読書倶楽部
127
ノー・セカンドチャンス

ノー・セカンドチャンス(上)ノー・セカンドチャンス(下)
127 ノー・セカンドチャンス(上・下)

ハーラン・コーベン 著
ランダムハウス 講談社文庫
巻き込まれ型混乱ミステリ

投稿人:コダーマン ☆☆ 05.12.04
コメント:あちらの作家がいかに巧みか、読んでみるべし


 タフな本。ものすごくタフな本だった。心をしっかり持って、淡々と読み進まないといけない本。こういう言い方はナマイキかも知れないけれど、すこしミステリ慣れしていないと、途中で「力尽きる」気がする。
 面白くないのかといわれれば、いやいや、非常に面白いと答えますけれどね。
 面白かったけれど、あまりにも主人公の精神的な苦労が重くて、読書が「楽しい」という言葉からは少し遠い気がした。よくまぁ、こうも主人公をひどい目に遭わせ続けるものだと感心してしまうミステリ。

 さて、ミステリの始まりとして稀にある状況だが、病院のベッドの上で主人公の意識が戻る。
 頭が働き始めてからゆっくり記憶をたどる。妻が銃で撃たれ、自分にも銃口が向けられて、撃たれたことを思い出す。そこで意識が途切れて、次に気づくと、「今現在」病院で寝ているのである。なんとか命を取り留めた。
 しかし妻は死に、生後六ヶ月の娘がいないのだ。娘の死体がないので、連れ去られたと判断し、生きていれば再び娘を抱きしめることができる日が来ると考える。そうして心を鼓舞して生きていくことにする。そして、娘を捜す手づるもほとんどないまま、事件から一年ほどしたときに、「誘拐犯」から娘は生きている、返して欲しかったら金を、という連絡が来る。
 亡き妻の父が裕福な人間なので金を都合してくれて、身代金を用意することができ、金と娘の交換に臨むのだが失敗してしまう。金だけ持ち逃げされてしまい、娘は帰ってこない。
 愕然とし、本当に娘は生きているのかという疑問を抱きつつも、娘が生きていることに望みを託し、犯人探しに力を入れる。そうしているうちに二度目の身代金要求。これも、金を調達して出かけるが、警察の失敗もあってまたも娘は取り戻せないまま、金だけ奪われる。
 ここにいたって、捜査陣は、身代金を持ち逃げされたのではなく、主人公自身が犯人の一味であり、初めから仲間が身代金を持ち逃げする策略だったのではないかと疑い始める。容疑者扱いされ出すのである。そう思われても筋が立つ展開になる。

 妻を殺され、娘を奪われ、自分も重傷を負い、大金を持って行かれ、犯人と疑われてしまう、という具合でやたらと苦しい状況に置かれてしまう。
 しかし、警察側も、ほとんど死ぬはずの場所に銃弾を撃ち込むことはできないはずだと考え直せば、主人公を「犯人でないと考えた場合」の推理もすすめるべきだろうと思う者も出てくる。徐々にそっちの方が論理的に正しく、犯人は他にいると考えるようになる。
 一方、容疑者とされた主人公は「こうなると」あくまでも自分で犯人を捕まえなければと動き回る。こうして、孤軍奮闘になって、ひどく苦しい状況は打開されないまま、局面は移っていく。
 その後何がどうなるのか、ミステリの紹介では全く書けない。
 
 本を読んでいれば、普通は主人公に肩入れするというか、主人公側から事件を見るようになる。この本ももちろんそうだが、これほど精神的に厭な目に遭わされ、傷つけられ続ける話を書かなければならないものかと思うほど、ひどい状態に追い込まれる小説だった。こういう本を読んでいくと、読書が楽しいというより、なんと苦しい物語だと思うようになってしまう。しかも、ハピーエンドではないので、やっかい。
 でも、面白いんですよ。ハーラン・コーベンはお薦めの作家です。


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