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文庫本読書倶楽部
107
銭湯の女神

銭湯の女神 107 銭湯の女神

星野博美 著
文春文庫
エッセイ集

投稿人:cave ☆☆ 04.02.28
コメント:「1」の章に含まれる作品は☆☆☆。


 不思議なエッセイ集だと思った。著者は華南の紀行文を出版し、また中国返還時の香港を描写して大宅賞を受賞した文筆家であり、女流写真家でもあるのだけれど、私はいまのところ本書以外は未読で、この「銭湯の女神」以外の情報を持っていない。なので、多少は誤解をしているのかもしれないが、少なからずも印象に残った一冊なので、思ったことを書いてみる。(ここでは個々のエッセイの内容には触れずにおきます)

 本書には、数編のエッセイで6つの章が構成されていて、全39篇が収められている。最後に掲載された一編以外はすべて書き下ろしである。にもかかわらず、各章ごとのエッセイの「肌ざわり」がどれも微妙ながら違っているように感じられる。当然といえば当然なのかもしれないが、冒頭から読み始めて、著者に関する情報を少しずつ増やしつつ読み進んでゆくと、章が変わるときに、妙な温度差みたいなものを感じる。変わりようがない作風だと勝手に安心しきってしまうこちらに原因があるのだろうが、カクンと少し角度が変わる。写真家だから例えるわけではないが、レンズを別のものに交換したような感じ、というか。抽象的な表現で申し訳ないけれど、その部分に違和感を覚えた(それもやや不快なものを伴って)。これが小説なら、なんら問題はないのだが、これはエッセイ集なのである。同一人物が語っているのに、すっと別の人格が入りこんできたようなかすかな気配。この不思議さが、また魅力となっているようにも感じたが。
 
 著者はアパートの自室から、ファミリー・レストランから、そして銭湯から、日本の現在の日常を、静かに、執念深くスキャンしている。そしてひとたび琴線に触れる事象を発見するや、怒濤の考察力と感性でそれに関することを組み上げてゆき結論づけ、たちどころに一編の完成品を作りあげてしまう。この才能は凄い。こういうタイプの作品はいままでにも多数あったようにも思えるが、実のところここまではっきりと結論にまで導いて終わろうとするエッセイは少なかったのではないか。だいたいは、もうすこし曖昧にしてしまうような気がする。エッセイとしては、そのほうが「加減」のようなところがあるから。ところが著者は頑固である。頑固というより「偏屈」(失礼ながら)のほうが適当か。一編の結論を導くために、自分の感性のレンズとはどういうものか、その素性を説明しつづける。モノを買わない。ナマケモノである。ОLは即リタイヤ。大女である…等々。生身を鉋で削るようにあからさまにしてゆきながら、読者をぐんぐん自分の世界に引き込んでゆくパワーと筆力。かたくなな主張。男の読者の方が頷けそうな感覚。それでいて、男ではためらってしまうようなハードな結論。実に不思議なエッセイ集であった。(ハードカバーにて購読)


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