タンメンのおいしい時間
2002年05月21日(火)
 昼休み、食べ物屋の込む時間が嫌いで、時間を遅らせていく癖がついてしまった。その程度の自由は許されていいと思う。日本中が同じ時間に空腹になると考える方がおかしいんだからね。
 さて、ラーメンの専門店があったんです。そこでラーメンを食べたらあまりおいしくなかった。ふーん、こんなものなんだろうと思った。
 それからしばらくして、その店に午後2時少し過ぎに入ってタンメンを注文した。
 塩味の麺を食べたい、という以外、何も考えていなかった。店員は、昼の騒ぎがおさまって、休み時間態勢に入りかけている。よくあるように、夕方からの分の餃子を皆で形にしているといった風景。
 なんだこんな時間に来て、しかもラーメン専門店でタンメンだと? といった気分ありあり、であった。みごとに面倒くさそうにパッパッとタンメンを作り上げて、サッと出てきた。
 これがね、実によかったんですよ。
 不機嫌、少し怒っていることが、手の作業を早めることになった。
 熱い中華鍋に野菜を放り込んでジャジャッと炒める、スープを加えて、茹で上がった麺にドドッとかぶせる。野菜シャキシャキ、麺サラサラ、塩味ほんの少し効き加減。タンメンというのは、基本的にできあがっているスープに塩味をつけ、余った野菜を炒めて放り込んだ極めて単純な麺料理だと思う。
 野菜のかけらを集めつつハフハフと食べ、麺をすする。食べ終えるまで麺がシャキッとしていれば、もうそれで文句はない。だから、その時のそのタンメンは理想的だったのである、私にはね。
 三人前ぐらいのタンメンを一緒に作ることがあるでしょ。そうすると決まって、野菜に火が通りすぎてしまう上に、麺も堅めを望むのが無理になる。麺の玉を三つほぐして入れた湯の中から、すくって湯を切って、丼に入れる作業に手間取る。麺の量を調節するために少し摘んで動かしたりする、その一秒一秒に麺が伸びていく。野菜もグチャグチャになっていく。
 その日その時のタンメンは、そういうことにはならなかったわけだ。
 それからしばらくして、そのラーメン屋はなくなってしまった。でも、タンメンの条件はわかっているので、またおいしいタンメンに会えるだろうと思っている。




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