(メールマガジン"ZEKT"寄稿コラム バックナンバー)

vol.12:偏屈にトリビアなし
2004年04月25日(日)配信分
 前回はなかなか面白かったですな。なもんで引き続き今回もトリビアがお題ということで、あたしのところにも回ってきたわけでございますが、いかんせんあたしは偏屈もの。偏屈ものは口が裂けても素直に「へぇ」なんて感心するわけがございませんのですよ。「知ってたけど思い出せなかった」とか言って誤魔化すに決まってます。だいたい、某局の人気番組も前回再開後ともに一度たりとも観たことがありませんしね。そのくせ蘊蓄てなものは、そこそこ保持しているんですがね。じゃあその蘊蓄を発表すりゃいいじゃないか、とおっしゃるでしょ。ところが、蘊蓄なんてものは酒場の隅でボソボソつぶやいているから良いのでありまして、その場の雰囲気に合わせて出任せでも作り話でも適当にアレンジして、あたりを煙に巻いときゃいいものなのでしてね。こうやって文章にして発表となると、それなりにウラもとらにゃなりませんし、いい加減なことも申せませんわな。でもまあ「お題」ですから何やら捏造しなきゃなりませんか。あいかわらず長いですな、前フリが。

 昨今はパソコン一台あれば、大概の机仕事は済んでしまうようになってきたとはいうものの、クリエイターのデスク周りは殺風景になりがち。資料やコピーやなんやかやが山積み。理想の仕事場環境を思い描いてはナカナカ実現できない人も多いんでしょうな。テメーのデスクの悲惨さは置いといても、イチオウ「アタマ」を使う仕事なんて自負もあるわけで、傍らに観葉植物や小動物の水槽などを配置して、しばしそちらに目を移しアタマのクールダウン、つかの間の和み世界を演出したいとか。かの「イトイ先生」のサイトを拝見しても、オフィスに金魚が泳いでおります。もっともあの自動更新画像、金魚は壁紙みたいなもんで、ガラスの向こう側の事務所風景が興味の対象なんでしょうがね。ま、オフィスの和みには植物が定番で、水やりをして時々陽に当ててやりゃいいんでラクちんなんですが、いかんせん動きません。それじゃどうもつまんない、と言うんで、水槽モノ、金魚やクラゲや熱帯魚なんてものを置いてみようとなる。新品で揃えた最初の一週間は、そりゃもうキレイで満足できるんですが、その後は厄介ごとのオンパレードになって、当初の生体が全滅した頃合いにお役ご免となるのが普通ですな。オフィスのОA機器に水は禁物なうえ、すぐに飼育水はドロドロに汚れ臭いを発し、病気も発生たちまち生体連続死ののち全滅。世話係は仕事どころではありません。で、や〜めた、となる。
 
 仕事場に犬猫などの大層なペットはもってのほかだしと、諦めきっているイキモノ好きのクリエイター諸氏のデスクサイドに「オカヤドカリ」はいかがですかね。実のところ、あたしも一匹だけ、そろそろ6年飼っているんですが、こいつが手が掛からなくていいんです。ヤドカリというと夏の海水浴の磯などでゴソゴソ這っているやつがポピュラーですが、あれは海のヤドカリ。海水の水槽を要して飼育がタイヘンです。オカヤドカリというのは南の島にいる陸生のヤドカリで、ヤシガニの弟分。昔は夏の縁日に露天商がタライを並べてよく売っていました。沖縄などへ遊びに行ってビーチで「まあ、きれい」と巻貝を拾って持ち帰ると、あとで大概動き出すのがある。あれですな。ところがなんと日本国内に生息するオカヤドカリはすべて「天然記念物」に指定されていまして、採集し持ち帰ったあなたはすなわち犯罪者ということになるんですぞこれが。じゃあなんで縁日や通販やホームセンターで売ってるんだよ、ということになりますが、指定時にどういう経緯があったのか、認可を受けた特定の業者には年間30トンまでの捕獲が認められているんですと。これ、1トントラック30台分。なんと年間約300万匹が、採っても良いことになっているヘンな天然記念物らしいんですな。最近は沖縄でも生息数が激減しているようなので、こんなテキトーな特例をそのまま放置しておいていいものかどうかと思いますが。ともかくそういう流れで売られているというワケなんです。正しい飼育法を知らず、ひと夏だけの生き物として飼われることが多いので、涼しくなるとみな死んでしまいます。これじゃ天然記念物というのに、あんまりですわ。

 鰓呼吸する生物なので湿気と飲み水は必要ですが、水を張った水槽は必要ありません。透明ケースに脱皮・防寒用の砂を多めに入れて、時々キリフキをしてやればよいだけ。ただ南国の生き物なので冬には保温の工夫をしてやる必要があります。エサはなんでも食べるので、仕事しながら摘んだポテチやポップコーンやあられなどをお裾分けしてやれば、喜んで喰っております。ケースのロケーションが殺風景ならハイドロカルチャーのガジュマルなどを配置しておけば、それに登ったり喰ったりして遊んでおります。逆の発想をすれば、観葉植物の鉢に囲いをすれば飼えるわけです。これを名付けて「盆栽ヤドカリ」。冬の寒さと乾燥に気をつけて上手く飼えば、脱皮を繰り返して成長し何年も生きます。年に何回か砂に潜って脱皮をしますが、この間はさすがに見えるところには出てきません。長年付き合っても飼い主にはまったく懐きませんが、トボケた表情で愛嬌があるし、見飽きたら貝殻を着せ替えさせてイメチェンもできるという便利なヤツです。しかしいくら手が掛からないといっても、時々は掃除やメンテナンスをしてやらないと臭ったり、ケースが不潔になって病気になったりしますが、まあ他のペットに比べれば、飼育は全然楽ちんですな。いちおう拙サイトに飼育記のコーナーを設けてありますので詳細に興味のある方はそちらもどうぞ。

 さあ、いかがです、デスクサイドに和みを。あなたのMacの隣に仕事のお供に天然記念物オカヤドカリを・・・。ってしかし、どこがトリビアなんでしょうね、このコラム。やはり偏屈にトリビアはちと無理でしたかな。どーも失礼しました。