(メールマガジン"ZEKT"寄稿コラム バックナンバー)

vol.14:ヘンなヒト
2004年09月26日(日)配信分
 猛暑に台風に地震。テロに五輪に野球ストといろいろ通過して行きましたが、皆さんはもろもろご無事でしたでしょうか。今年は、ついぞ一度も靴下を穿くことなしに、ひと夏終えてしまった偏屈です。え〜これはつまり、サンダル履きで行動できる範囲を超えなかったということでして、したがって「アッと驚く」ような、変なヒトに出会う機会もなく弱りました。まだ鏡に向かったほうがよほどネタになるってな体たらくでして・・・。

 とある日の夜、ほぼ満員の地下鉄車内で揺られながら(サンダル履きで)立っていましたら、ドアに持たれるようにした、半ケツズボンに鼻ピアスのお兄ちゃんが、あたりを憚ることもなく、大きな声で携帯電話を話してます。周辺の乗客すべてに通話の内容が解るような声でして、女の子を口説いているんですが、まあそのしつこいことお下劣なこと。数駅が過ぎても一向に止める気配がありません。その態度には「オレはこんなヤツだから、注意なんかしないほうが身のためだぜ」という周囲へのメッセージが含まれているようなので、不愉快には感じつつも仕方なく黙認していたのであります。

 すると突然、車内中ほどから「地下鉄での携帯電話の使用は、他のお客様の迷惑になりますから、止めてください!」という、まことに丁寧な内容の絶叫が繰り返されてくるではありませんか。あたしを含めた、兄ちゃん周囲の乗客は、一斉にその声の方向に顔を向けましたが、こちらに向かって注意をしているような人は見当たりません。その抗議の絶叫はエンドレスに続いていて、さらにどんどん近づいてきます。通路に立つ人を掻き分けて、こちらに進んで来たのは、ダークスーツに身を包んだ四十歳代の堅そうなビジネスマンで、ようやくその方が音源だと解りましたが、顔の正面は「夕刊フジ」で衝立のように隠されており表情は全く窺えません。しかしその間も寸分違わず抗議のシュプレヒコールは繰り返されています。電車が駅に着いてドアが開いた瞬間に、ちょうどドアに到達するよう計算の上で進んできたようで、兄ちゃんと全く視線を合わせることもなく、サッと横を素通りしてホームへ消えてゆきました。あたしも、抗議をされた兄ちゃんも、周りの乗客も一瞬「点目」になりましたな。

 オッサンが風のように去った後、その兄ちゃん、急激に口説きのボルテージが萎えてしまったようで、「チェッ」と舌打ちすると、次の駅で降りていってしまいました(電話はまだ続いてましたが)。ビジネスマンの抗議は、一応効果を発揮したようなのでありますが、兄ちゃんの携帯通話とビジネスマンの絶叫の、どちらが「迷惑」だったかといえば、そりゃもう抗議の大声の方でありまして、またどちらの人が「怖いか」と言っても、断然ビジネスマンが不気味なのであります。その兄ちゃんは迷惑電話への注意に対しては決して甘んじるような人ではないと見ましたが、たぶん「変なオッサン」と一組に認識されてしまった自分のカッコワルさに耐えられなくなって逃げ出したのでありましょう。そんなわけであたしは兄ちゃんの方にいくぶん同情してしまったのでありますが。ま、車内での携帯電話の使用は、他のお客様の迷惑になりますから止めましょうね。