(メールマガジン"ZEKT"寄稿コラム バックナンバー)

vol.1:はじめまして
2002年11月03日(日)配信分
 今回より、縁ありましてzektコラム陣の末席に加えさせていただくことになりました、フリーデザイナーの"cave"です。どうぞよろしくお見知り置きのほどを。

 「アンタいったい何者なんだ!」とおっしゃる方も多いでしょうから、とりあえずの自己紹介を。某芸大デザイン科を卒業後、東京の広告制作会社に10年間勤務。その後関西にて会社(広告代理店)の設立に参画し10年間経営・制作業務に携わって参りました。で、晴れてか曇ってかトチ狂ってか本年よりフリー、という訳であります。モットーというか性分は「偏屈」「不器用」「貧乏性」という、どうしようもないオッサンでありまして、当欄でも、業界や世相について、上記三つの視点から、だらだら〜っと「ぼや」いてゆく所存でございます。ときどきは毒を吐くこともありましょうが、偏屈のうえに不器用ものの戯言と、適当に読み流していただければ幸いです。

 しかし景気は酷いもんですな。若いクリエイター諸氏にとりましては、社会に出たときからずっと「こんなもの」だと思われているかも知れませんが、あたしみたいに20年以上もやっておりますと、ひしひしと感じるわけでありまして。まあ、広告業界の性質上、株価のようにガクンと上がりドサッと落ちることはなく、ずいぶん後からヌルヌルと上がったり下がったりしますもので、危機感も持ちにくい。気がついてみたら辛抱のしっぱなし状態が続いているというような…。

 まあ貧乏性のあたしにとって、儲からないことはさほど応えないんですが、景気の低迷が続いたことにより、広告の「質」というものが随分ないがしろにされてきていることには、強い憤りを感じるわけです。

 先日、某企業の全国紙朝刊中央二連版(全15段×2)広告のコンペの「助っ人」のお声が掛かりました。ヒマにしておりましたものですから、張り切って受けましたが、企画書30ページ、広告案10種以上の提案までに二日しか時間がありません。一日目に資料を集め、二日目にカンプ制作作業を昼夜ぶっ通しで続けなんとか提出。(まあ、こういう無茶なことを要求されるようになったというのも、パソコンDTPと高速通信の普及があってこそなんですが、その功罪については別の機会にぼやくことにしまして…)

 いくら時間がないといっても、あたし、腐っても一応ベテランですから、それなりのものは創らにゃなりません。何度も元請け代理店からの要求を加えながら、全国紙レベルのクリエイティブを維持すべく頑張ったわけです。甲斐あってコンペは通りました。問題はそのあと。急いでいたのは媒体のアキを埋めるためだったのですが、なんとか広告主にウンと言わせて出稿が決まってしまえば、代理店担当者、急にトーンダウン。プレゼン時のクリエイティブ試行錯誤など何処へやら、あげく10日後には、あたしが作ったカンプとは似ても似つかぬ酷いものが堂々紙面に掲載されておりました。

 そりゃ媒体費は、今日日の制作費とは桁が違いますから、押さえられれば御の字テなモノでしょうけど、企業の名前を出して人様の目に触れるところに掲げるものなのだから、もう少し「美しい」ものにする配慮があっても良いのでは、と。もちろん「広告」というものを良く理解し重要視してきたような企業は、そういう無茶はやらないとは思いますが。どうせ不景気なんだから、カネは懸けずともじっくり時間を使って、社会に「よい気分」を味わって貰えるような広告作りに留意してほしいもんだ、と思いますな。

 暗室に出入りしながら一週間くらいかかって、たった「一枚きり」のカンプをしこしこ作っていたころが懐かしい。