(メールマガジン"ZEKT"寄稿コラム バックナンバー)

vol.3:広告、かなり沈んでますな。特に下のほう
2003年01月12日(日)配信分
 さてさて、年が変わりましたが、果たしてこの弩級不景気、少しは良くなるのでしょうかね。こんな商売やりながら叱られそうなんですが、わたしこの10年ほど、ほとんどテレビ番組というものを観ておりません。理由は数えだしたらキリがないほど出てきますので省略させていただきますが、大ざっぱに言うと「腹の立つことの方が多い」からで、そこはまあ偏屈の偏屈たるところとお笑いください。それでも、商売柄広告くらいは時々チェックしとかにゃなりませんので、ほんの僅かな時間ですが、ブツブツ文句を言いながら年末年始のCMをさらりと観ました。

 CMも印刷媒体も、うまく「高み」にたどり着かれた方々、乱暴に言えば、各種クリエイティブの協会・団体が毎年発行している「年鑑」の図版の前の方にお載りのお方がたの手になるとおぼしき作品で、なんとか一定のレベルを支えているみたいですが、長期にわたる景気の低迷で、低地から中腹にかけては、もはやズダボロですな。かく言う私も低地の住人なんでございますが、昨今の広告予算では、ひとつ上のクリエイティブに仕上げるために、充分に手を掛けることは不可能に近くなってしまいました。なかでも一目瞭然なのは、広告に使用されている写真です。

 電車の中吊り広告などを拝見しておりますと、あらあら、メインに堂々とレンタルポジが…それも大手企業の、と絶句することもしばしば。酷いときには僅かのスパンで別会社の広告に同じ写真が使われていたりして、私には関係ないのになぜか勝手に冷や汗をかいたりすることもあります。ウエブサイトに至ってはもっと凄まじく、著作権フリーの素材写真が溢れておりまして、大手企業の採用ページなどでも、他社と同じ顔のフレッシュビジネスマンが重複出演しているありさま。下手をするとシロートさんの年賀状と同じ写真で大企業が広告を作っているということになりかねません。これ、クライアントのチェック機能の弱体化が原因なのかもしれませんけれど、天下の○○社が、というような体裁を考えると、かなり恥ずかしいコトのように思えます。

 ひと昔前は、企業の宣伝部に“ちょっと(広告が)分かったような気でいるウルサイ担当者”と呼ばれている方々が生息しておりまして、制作会社やクリエイターから陰で「癌」呼ばわりされていたものですが、時流れ最近はその数を減らしているように見受けられます。まあ作り手にとっては進行がラクなんですが、そういう粘着タイプの方々が現場にいなくなった分、予算もアッサリ減ってしまい、前述のようなテイタラクが普遍化したのかもしれません。クリエイターにとっても、クライアントの無理難題を凌いで自分の作りたいものを世間に送りだしていくという、ひとつの修業の場を失ったとも言え、喜んでばかりはいられない事態ですな。

 そのウルサ方の関門を切り抜けて、かつ自分の望みの広告を実現させようという作り方が習い性になってしまってますから、昔の調子でプレゼンテーションをすると、拍子抜けすることが多くなってしまいました。直しを入れられるべきところが感心される始末。また逆にこちらから指摘・質問すべきことが激増し、この担当者、真剣に自分の会社のことを考えてシゴトをしているのかいな?と感じることが増えましたねえ。経費を抑えるために素人デジカメ原稿やパワーポイント図版を広告印刷物に使用、なんて酷い指示がしばしばあります。また、シコシコ作業しつつ、今どき果たしてここまで丁寧に作り込んであげる必要があるのだろうか、とも。そんでもって報酬額を訊いてみると、こりゃ私サービスし過ぎなのかな、と、悩みはますます大きくなるばかり。そんな程度のモノを御社はお望みなのか?

 今となれば「癌」や「天皇」などと呼ばれていた企業宣伝部の頑固担当者の方々が懐かしいですな。嫌がらせか、と思えるほどカンプの手直しをさせられて閉口しましたが、ああいう方々の広告制作への情熱(もしくはエゴ?)が、上司・役員を説得し、稟議を通し、広告予算をブン取り、極上モデルを起用し、海外ロケを敢行させてきたんだなーと感慨にふけってしまいます。今のサラリとした担当者の方々は、指示を出し終わると我々にオマカセで早々退社してしまうのが大半ですが、「癌」や「天皇」を継ぐメリットが感じられないのも、このご時世ならしかたないことでしょう。政治家にしたって、最もシゴトの情熱に繋がるものが利権や献金や票を得ることなのならば、昨今の風潮では、真剣にやる気が起きないんじゃないかと推測します。まあ、彼らの職業に関しては、それを許すわけには参りませんが。

 昔が良かった、と言っているのではありません。ただクライアントが、より質の高いものを作らせたいと望むなら、それなりの面倒な手順も必要でしょうし予算も膨張します。そこを上手く予算内期限内に納品させるには、担当者のスキルが重要になるということですな。制作側も同じ報酬額ならラクに作れるに越したことはない、いわゆる質的な敷居が低ければ手を抜けるわけですから数をこなせる。あくまでも私の知りえる底地の仕事での話ですが、クリエイティブの地盤沈下を食い止めるのを、クリエイターのプライドのみに頼るにはもはや景気が酷すぎます。ここはクライアントの担当者様にもいまひと踏ん張りの勉強と情熱をお願いしたいもんだと思うわけです。

 前回当欄でウエブデザインに触れた折、拙個人サイトのことを書きましたら、多数の方々がわざわざ訪れてくださいました。URLを明記しなかったのでかえってお手数を掛けてしまい恐縮いたしております。んなもんでこの際、恥を忍んでURLを晒させていただくことにします。ま、このコラムタイトルも「…アネックス」にしてしまっていることですしねえ…。しかし、気の利いたサイトではありませんよ、ってもう一度念押し。