(メールマガジン"ZEKT"寄稿コラム バックナンバー)

vol.7:デジカメについて
2003年05月11日(日)配信分
 いよいよ本格的に窮して来た感じの偏・不器・貧のcaveでございます。しかし気候の方は穏やかで爽快。こんなときはヒマなほうが得だと無理矢理思うことにして、今回もデザイナーの「底辺」の話題をぼやかしていただきます。

 デジカメの話題など、なにを今更…てな感じなんですが、グラフィックデザインの仕事もどんどんデジタル化が進み、デジタルカメラもデータ入力機器のひとつとして必需品となりました。私も35万画素あたりが最高画質の頃より手にいたしまして、6機種ほどを渡り歩いてきました。もちろんプロ仕様の一眼タイプは、写真を生業にしておられるかたにお任せして…というより価格のほうで手が出ませんで。したがって、お話できるのはコンパクトタイプの上級機種についてなんですが。

 少し前までは、デジカメの性能と価格が割に合わず、はたまたハードウエア(パソコン)のほうのメモリやディスク容量も貧弱だったものですから、ウエブには使えてもDTPにはせいぜいカンプ用や小さな写真原稿としての使用が関の山だったんですが、急激な性能の向上と価格低下であっという間に「使える」ようになりました。それとともに弩級不景気のあおりで、フォトグラファーのギャラ分すら捻出できないようなお仕事が増加。簡単なブツ撮りやスナップ的現場写真はライターやデザイナーが自前で撮影しなきゃならないという、トンでもない事例もじんわり増えてきております。

 そんな訳で、私も市販されている簡易スタジオセットなんて黒ミカン箱のようなものを購入、照明も用意し、小物のテーマやブツなどを不器用ながらやむなく撮影しているのですが、これ、後から簡単に手を加えることが可能なデジカメだからこそ、素人写真でも本番使用できるわけでして…。デジカメが仕事に「使える」ようになったというのはその意味でです。コストと時間の節約ですな。クオリティから言えばポジフイルムで撮るのが確かなのですが、こちらは、さすがに付け焼き刃ではなかなかキチンと撮れませんもの。そのうえラボに回すタイムラグが出ます。デジタル化するにも製版用の高価なスキャナーが必要になりますしね。

 デザイナーの私が簡易な機材といい加減な知識(いちおう写真の基礎は押えていますが)で撮ったものでも、パソコン上で補正できてしまうので、なんとかなんとか「仕事品質」にまで持ってゆける訳ですが、これ、よく考えてみると、またデザイナーのお仕事がひとつ増えているんです。ポジのアタリを取って指定を入れればあとは製版任せで済んでいたものを、フォトショで開き、解像度を合わせ、色調やレベルの補正をし、照明効果を加え、不要なものをカットし、マスクを掛けてブラシを吹き、目一杯拡大してスタンプでゴミ取り、妙齢の女性には整形を施し…かなり面倒な作業が待っております。

 もっともこれらの作業は、元原稿がピシリ!と決まっている写真なら不要なのですが、デジカメの性能が上がったとはいえ、ナカナカ全て一発で決まるものじゃありません。露出はある程度後に補正が可能ですが、特に厄介なのがピントです。いくら500万画素で撮っても、ピンが来ていない写真だけはどうすることもできません。慎重にマニュアルフォーカスで部分拡大表示にして合わせるのですが、私のような視力のあやしいオッサンには、あの小さな液晶画面にモザイク状態で表示される画像では、どこで合っているのかサッパリ自信が持てません。結局あやふやのまま距離を変えて前後数枚押えることになるのですが、コンパクトなデジタルカメラにも、距離合わせの機構にもうひと工夫欲しいところですな。

 ちまたでは、カメラ付きケータイが35万画素!や、最薄最軽量300万画素!などと宣伝しておりますが、私に必要なのは、基本性能の良いマニュアル・デジカメなんですな。オート部分はできるだけシンプルにしていただいて、合わせやすいフォーカスとユーザーインタフェイスを向上させた機種が欲しい。んでもってお値段はお手ごろなの。一眼レフタイプのデジカメもボディのみの価格がようやく20万円台まで下がってはきましたが、もう一声!ないと買えません。レンズも必要ですしね。

 しかし考えてみますと、写植屋さん、製版屋さん、カメラマン、と受難の時代がひたひたと進行しております。次はデザイナーの番ですか。このまま不景気が進むと、もはやライターさんがフィニッシュまで、というのが定番になったりして。クライアント様、予算がないのは解ります。しかし、各ジャンルの専門家をスキップした制作物のクオリティは確実に落ちてゆくことをご理解いただきたい。また、スペシャリスト各々の持つ技術と感性は、簡単にコンピュータで肩代わりできるほど、浅いものではありませんぞ。