(メールマガジン"ZEKT"寄稿コラム バックナンバー)

vol.9:求む!明るい広告
2003年07月13日(日)配信分
 最近、ちょっと株価が持ち直しているみたいな按配らしいですが、こちらのほうには全く御利益が回ってきてくれません。阪神タイガースが好調で、その経済効果なるものが試算されたりして、マスコミを賑わしておりますが、関西在住にもかかわらず、あたしのところに美味しいお話は参りません。あいかわらずのcaveでございます。

 実はあたし、一応永年の「虎贔屓」ということでやらせていただいておりまして、今季の好調のおかげで、普段観なかったテレビの前に座り込む時間が長くなっております。また新聞等も、スポーツ面を読む機会が増えたために、全紙面を見渡す時間が長くなっております。トラの経済効果はともかく、媒体ウォッチング効果、みたいなものは確実に出ているわけでありまして、まあ、暇を持て余してということの裏返しでもあり、あまりありがたいことではありませんが。

 そうして媒体ウォッチングをしていて思うことは、放送・印刷物両者とも、好景気だったころに比べると、広告のクリエイティブが、どうも味気なくなってしまったということです。

 新聞広告などの印刷媒体には、大きなスペースの中央に「お得です!」「○%OFF!」「安い!」などを始めとした、メリット直接表記コピーをデーンと大書したものが多く見られます。グラフィックも、作成ソフトの機能をそのままお気楽に使用した3D立体文字がゴテゴテと。メリット直接表記コピーを引き立たせるために、バックの色ベタを立体化させて、その上に白ヌキでど〜ん、なんてパターンも多いですな。目立つし、言いたいことはスグ伝わりますが、面白くも何ともありゃあしません。
 
 だいたいが、あたしらの修行時代は(写植・版下時代のことですが)、3D立体文字をレタリングするとなると、それは並々ならぬ思いきりを要したものでして、「5文字以上はイヤ!」なんてディレクターに泣きついたりしたものです。ですから、他の要素が使えなかったり、キャッチなどで「ココ一番!」と言うときにしか用いられませんでした。後に「ヘタうま」文字が認知されたときは、ほっとしましたよ〈笑)。で、マックでの制作が始まったとき、いちばんありがたみを感じたのが、この影付き、袋などの立体文字が簡単に作れる、ということでした。あと、地図やグラフ作成もそうですがね。

 ですからあたしなんぞは今でも、こういう装飾文字は、「ココ一番!」という時にしか使わないのが習い性になっております。また、そのほうが広告が美しくなるし、強調効果も出ると思っておるのですが… 今の若手クリエイターには、そのあたりの慎みが足りません。この世界に入ったときすでに「便利な機能」がさも当然のように備わっていたわけですから、無理もないのかも知れませんが、ハッキリ言って「使いすぎ」です。安直に使いすぎると、出来上がりが、おおむね「下品」になるんですよ、これが。

 テレビCMのほうも、「啖呵売」的長尺通販広告を始めとした味気のないものが幅を利かせております。あと、目立つのが「消費者金融」広告でしょうか。これも世相でしょうねえ。まあ、あのあたりは制作に「ハンデ」を課せられておりますので、それを跳ね返す必要があり、工夫されてナカナカ上質なものになっております。テクニックは凄いですね。まさに不況が生んだネガティブ・クリエイティブの結晶、と言えましょうか。手放しで、明るい、とは言えませんが。

 オッサンのわたしではありますが、さらにご年配のオヤジ連に感想を伺ったところ、消費者金融某社CMのダンシングチーム編を指して「あれはいい!!」と唾を飛ばしながらおっしゃる方が断然多い。若い頃は理解不能でしたが、実はわたしも、最近はあの「良さ」がじんわり解るようになって参りました。喜んでていいのか微妙ですが…。これでなんとなく某国独裁者の「趣味」も理解できるというものです。また某社の「笑顔のおねえさん」然り、です。あのキャラクターが醸し出しているものは秀逸ですな。どちらも「素材」選択のセンスはかなり高度な感性です。素晴らしい。これ、若者および女性には解んないかもしれないですが…。

 制作費うんぬんはともかく、アイデアとセンスを搾り出せば、味わいのある上質な広告はもっと作れるはずなんですがね。どうも長引く不景気は、そのあたりの「ゆとり」まで蝕んでしまっているような気がします。これがなんとも口惜しい。せめて、「明るい広告」「笑える広告」をどんどん増やしていただきたい。関西の某殺虫剤企業が孤高の頑張りを続けてくれてはおりますが、追随してくれる企業が増えることを切に望みます。企業の制作担当者さまにはその辺りに充分なご理解を賜りたいですな。もう、「メリット直接表現」広告の時代は、そろそろお終いにして欲しいですわ。「明るい広告」求む、です。